【142】「湖東記念病院事件」滋賀県警に要請書を提出
◆要請書、全文紹介します
「湖東記念病院事件」で、新しい動きがありました。
このブログでは、以下のように書いてきました。
再審無罪が確定したからと言って“良かったね”で終わらせるべきではない。事件を支援してきた「日本国民救援会」や「再審・えん罪事件全国連絡会」は、冤罪を作り上げた滋賀県警に対して何らかのアクションを起こすべきだ。
(こちらに書きました)
【137】「湖東記念病院事件」無罪!!but…冤罪を作り上げた連中をこのまま逃がすな!! - Free大助!ノーモア冤罪!
【140】“こんな人たち”に屈するワケにはいかない - Free大助!ノーモア冤罪!
そうしたら本当に救援会が、県警本部長宛に要請書を提出しました!!
以下に全文を紹介します。
※読みやすくするため、私の方で原文に改行を入れています。
湖東記念病院人工呼吸器事件の検証と西山美香さんに謝罪を求める要請書
滝澤依子 滋賀県警本部長 殿
2020年4月23日
3月31日、大津地裁(大西直樹裁判長)は湖東記念病院人工呼吸器事件再審裁判において、再審被告人の西山美香さんに無罪判決を言い渡しました。
判決は、西山さんに虚偽の自白を強要した捜査のあり方を厳しく断罪し、自白調書を証拠から排除しました。
大津地裁判決は、無辜の救済という再審制度の理念を実現したことで滋賀県民をはじめ多くの国民が歓迎しています。
また、全国紙をはじめ多くの地方紙も社説で今回の無罪判決を高く評価するとともに、そもそも事件性がなかった本件で、警察が西山さんに対して違法・不当な自白偏重の捜査をしたことと、警察と検察が証拠を隠したことを厳しく断罪しています。
判決では、取り調べの警察官が、軽度の知的障害がある西山さんから恋愛感情を寄せられていたのを熟知しながら、捜査機関のストーリーに整合する自白を引き出そうと誘導したと断じました。
さらに、警察、検察による恣意的な証拠の取り扱いも厳しく批判しています。本件では、検察が187点もの証拠を弁護側に開示したのは再審開始決定確定後であり、その内の58点は警察から検察に送致されていなかった証拠でした。
そのなかには、事件性を否定する「たん詰まりで死亡の可能性」を指摘した医師の報告書も含まれており、それが検察に送致されたのは昨年7月です。西山さんが人工呼吸器を外していないと主張した供述調書も長らく送致されていなかったのです。
これらの証拠が検察に送致されていれば、西山さんは起訴されることはなかったかもしれません。憲法や刑事訴訟法、犯罪捜査規範等にも反しており、冤罪事件を作り上げた警察の責任は重大です。
西山さんにとっては、逮捕から約15年9カ月ぶりに再審無罪判決によって、やっと殺人犯の汚名が晴らされ名誉回復につながりました。
しかし、懲役12年、最初の再審請求から9年半が経過しました。自由と大切な青春時代を奪われ、失われた年月はあまりにも長いと言わざるを得ません。
無罪判決にあたって滋賀県警は、「無罪判決については真摯に受け止め、今後の捜査に生かしたい」とコメントしましたが、西山さんに対する謝罪はいまだにいっさい行われていません。
しかも、無罪判決が指摘した西山さんに対する違法・不当な取り調べについて、「常に取調官と被疑者という関係を維持していた」として取り調べが適切に行われていたかのように述べています。
さらには、西山さんの無罪を示唆する重要な証拠を検察に送っていなかったことについても、調査を行ったとしながら、その調査報告書を公表しない、再調査も行わないとしています。
その後のマスコミの取材をはじめ、県警本部長の定例の記者会見においても、記者からの「警察の責任を問う」質問にいっさい応じていません。
「無罪判決を真摯に受け止め、今後の捜査に生かしていく」というコメントは単なる口先だけのもので、県警の姿勢は、「日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってならない」とする警察法2条(※)に掲げる警察の責務の放棄であり、国民の信頼を著しく踏みにじる行為です。
私たちは、滋賀県警がこの事件の捜査を真摯に反省し、徹底的に検証をおこない、その調査結果を公表し、二度と冤罪を生み出すことがないように捜査のあり方を抜本的に改善することを求めます。
そして、何よりも警察の違法・不当な捜査によって人権侵害を受けた西山さんと家族に謝罪することと損害を償うことを強く要請します。
※「警察法 第2条」
1. 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
2. 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。
◆これからの県警の対応に、ご注目ください
要請書を提出したことは「京都新聞」と「しんぶん赤旗」が報じています。「赤旗」によると “上司に伝える” と担当者が答えたということです。
本当に滋賀県警は反省し、二度と冤罪を起こさないよう再発防止策を講じるのか?
そして、西山美香さんに心から謝罪をするのか?
この先の動きを見守りたいと思います。
【141】いま、韓国がスゴい!!日本は“韓流司法改革”を見習おう
◆変わるアジアの国々と、変わらず置いてきぼりになる日本
ちょっと長い前置きを書きます。
昨年ベストセラーになった『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』という本を読みました。著者はスウェーデンの医師で、統計学者でもあるハンス・ロスリングさん。
この本は、私たち(とくに先進国)が世界の現実をまったく知らないということを、豊富なデータとともに教えてくれます。
たとえばこんなクイズ。
Q世界の1歳児で、なんらかの予防接種を受けている子どもはどのくらいいる?
- A 20%
- B 50%
- C 80%
ネタバレになってしまいますが、正解は「C=80%」です。
著者が講演などでこの質問をしたところ、正解率はたったの10〜20%台。「A=20%」という回答が一番多かったそうです。回答者の中には、国際的な舞台で活躍しているビジネスパーソンや研究者も多くいたといいます。
こんな結果になってしまった原因として著者があげるのが “世界の大部分は貧しい” という思い込み。先進国だけが発展し、他の地域は未発達のままという40〜50年ぐらい前の価値観を、いまだに捨てられないといいます。
現実はまったく逆で、ここ20〜30年の間にアジアやアフリカは着実に豊かになってきました。1年単位でみるとわずかな成長率ですが、その小さな成長が積み重なって『80%』という数字につながっているのです。
「先進国」と「発展途上国」と世界を2つに分断するのも、もはや無意味だと著者は指摘します。
私は読み終わって、日本とアジアの国々についても同じことが言えると思いました。
“日本はアジア一の先進国。他の国は追いつけない” という思い込み、いまだに強いんじゃないでしょうか。
こんな幻想にしがみついていると、日本はアジアの発展から取り残されるでしょう。というか…すでに取り残されつつあります。
たとえば司法の分野(ようやく本題です)。
日本の現状は、国連から“中世レベル” と厳しく批判されています。やっていない!と否認している人を長期間拘束し、拷問まがいの取調べを許している日本は “先進国”であることを、自ら放棄しているようなものです。
その一方でアジア諸国では、冤罪救済に向けて目を見張る動きが起きています。今回は韓国について書いてみます。
◆韓国がスゴい!と言える、これだけの理由
これから書く内容は、安部祥太・青山学院大学助教授の講演をもとにしています。私は講演をYouTubeのライブ中継で観て、このブログでもシェアしたくなりました。
- 文章は講演の動画をもとに私が勝手にまとめたので、文責は私にあります。
- 3月30日の「大崎事件」第5次再審請求の報告会で行われた講演です。
- YouTubeのリンクを張っておきます。ぜひご覧ください。
(記事はリンクの下に続きます↓)
◆日本の刑事訴訟法をベースにした韓国
1910年の日韓併合によって、韓国は日本の植民地に。司法権は日本に掌握され、当時の日本の刑事訴訟法(刑訴法)がそのまま用いられました。 韓国独自の刑訴法が誕生したのは植民地解放から9年経った1954年で、以下のようなものでした。
「植民地時代の日本の刑訴法」+「アメリカの政令法」+「戦後制定された日本の新しい刑訴法(現行刑訴法)」=韓国刑訴法
しかし朝鮮戦争(1950〜53年)の混乱もあり「再審」の規定については十分に議論する時間がありませんでした。そのため日本の現行刑訴法の第435条以下をほぼそのまま流用し、現在に至っています。
なので、以下のような日本のダメな部分も流用されてしまいました。
- 再審請求に対する裁判所の審理期間が定められていない。「いつまでに何をする」といった手続も明記されていない。
- 裁判所が再審開始決定を出しても、検察が抗告してツブすことができる。
- その結果、無実の人を救済するのに何十年もかかってしまい、最悪の場合は本人が亡くなってしまうこともある。
韓国では今、こうした制度の不備を見直そうという動きが進んでいます。
◆韓国を知るキーワード“過去事精算”
韓国の時事問題を語る上で、重要なキーワードが「過去事清算(かこじせいさん)」。これは1987年に民主化される以前の、軍事独裁政権時代の負の遺産を清算する取り組みです。
軍事独裁政権下では多くの人々が不当逮捕され、拷問され、不公正な裁判によって刑務所に送られたり命を奪われました。こうした弾圧犠牲者の名誉回復と救済は、韓国の司法の重要課題となっています。
近年は4つの動きがありました。
①2017年「検察過去事委員会」の設置
「検察過去事委員会」は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が法務部(法務省)に設置した委員会。過去にあった検察による人権侵害を調査し、改善策を勧告します。
調査した事件の1つに「薬村(ヤクチョン)五叉路殺人事件」があります。
これは2000年に起きたタクシードラーバー殺人事件。犯人として15歳の少年が逮捕され、拷問のような取調べによって“自白”させられ、裁判で有罪が確定し10年の服役を余儀なくされました。
元少年は満期出所した後に再審請求し、裁判所は再審開始を認めます。しかし検察は、これを不服として抗告します。
幸いなことに、最終的には再審無罪が確定。「検察過去事委員会」は、検察の抗告を厳しく批判し、以下のような勧告を出しました。
※機械的=再審開始決定に対して、正当な理由もなくとりあえず抗告すること。日本では「大崎事件」の鴨志田祐美弁護士が“脊髄反射的な抗告”という表現で批判している。
実は検察は、早い段階で真犯人の情報を得ていたにもかかわらず、捜査も起訴もしませんでした。抗告することで時間を引き延ばして事件を時効に持ち込み、自分たちの失態をウヤムヤにしようと企んでいたらしいのです。
②2018年「国家人権委員会」による勧告
「国家人権委員会」は、三権(立法・司法・行政)のどこにも属していない独立機関。人権侵害を受けながら裁判所に救済されなかった個人が、救済を申し立てる駆け込み寺のような存在です。
ここに冤罪犠牲者の男性から、申立てがありました。この男性は連続殺人事件の犯人とされて無期懲役になり、刑務所の中から再審請求しました。裁判所は再審開始を認めたものの、検察は抗告。結局「大法院」(最高裁)まで争って再審無罪が確定しましたが、この間男性は釈放されず、身柄は拘束されたままでした。
これを受けて「国家人権委員会」は、以下のような勧告を出しました。
「国家人権委員会」の勧告に法的な拘束力はありません。しかしながら、これまで出された勧告の履行率は93%にものぼっているといいます。残念ながら、日本にこうした役割を担う機関は存在しません。
③2019年「刑訴法改正」がいよいよ現実に
再審規定の改正案が作成され、国会に提出されようとしています。改正案には2つのポイントが盛り込まれています。
- 検察による即時抗告を制限する。
- 裁判所の審理期間を設定する(再審請求の申立てを受けてから1年以内、抗告審は6ヵ月以内)
この案を作った議員は “自分の在任中に必ず成立させる” と、高らかに宣言したといいます。この議員さんは、警察官僚出身だそうです。日本ではとても考えられません…。
再審規定改正の機運が高まった背景には、ある冤罪事件の存在がありました。
「華城(ファソン)連続殺人事件」と呼ばれるこの事件は、1986年〜91年にかけて起きた連続強姦殺人。10名の女性が犠牲になり、韓国社会の高い関心を集めました。
2019年9月に最新のDNA鑑定によって真犯人が明らかになり、裁判所は“犯人”として無期懲役が確定していた男性の再審開始を決定しました。検察は抗告せず、現在は無罪の言い渡しに向けた準備手続が進んでいるといいます。
④“公益の代表者”を誇りにする検事の登場
林恩貞(イム・ウンジョン)は、ソウルの女性検事。軍事独裁政権下の弾圧事件の再審を担当したときに、無罪求刑を行おうとしました。
しかし検察上層部は「白紙求刑」しろと圧力をかけてきます。これは裁判所にすべての判断を委ね、有罪も無罪も主張するなという意味です。
これに対して林検事は “公益の代表者として無罪を確信したのだから、無罪求刑するのが当たりマエ” と圧力を突っぱね、懲戒処分になってしまいます。処分を不服とした林検事は裁判所に訴えて勝利し、現在も検事として活躍しています。
林検事は検察上層部のセクハラや不正行為も告発しており、韓国における「#MeToo運動」の立役者にもなったということです。
もうひとりの女性検事、安美賢(アン・ミョンジョン)は、カジノ施設の職員採用不正事件で、与党議員らの関与を指摘。しかし与党や検察上層部から圧力を受けます。
それにも負けず、逆に圧力をかけた上層部の実名を公表。 “公益の代表者” という信念がそうさせたといいます。そして林検事と同じく、現在も検事として活躍しています。
⑤改革を後押しする国民の関心
これまで紹介した事件のうち2つは、映画化されています。
- 「薬村(ヤクチョン)五叉路殺人事件」→『善悪の刃』(2017年)
- 「華城(ファソン)連続殺人事件」→『殺人の追憶』(2003年)
後者の『殺人の追憶』は、アカデミー受賞作『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督と、主演俳優のソン・ガンホがはじめてタッグを組んだ作品です。
国民的な人気俳優による映画の題材にもなるほど、韓国社会の冤罪や再審に対する関心は高いといいます。
◆いっそのこと、日本は司法修習を韓国でやればいい
以上、安部祥太助教授のお話をもとに、韓国の取り組みを紹介してきました。警察が拷問のような取調べを行ったり、検察が再審開始決定に抗告したり、日本と似たような状況もあります。
でもそんな状況を何とか変えよう!という人々の志の大きさは、雲泥の差。警察官僚出身の国会議員が改革を推進し、正しい使命感を持った検察官が活躍し、人々の関心も高いなど、日本の現状を考えると本当にうらやましいぐらいです。
いっそのこと、日本は司法修習を韓国にアウトソーシングすればいいとさえ思ってしまいます。
日本には “嫌韓、断韓” などと韓国をバカにする風潮もありますが、今はそんなことを言っている場合ではありません。日本が一番なんて思っていたら、ますます国際社会から取り残されていくでしょう。
さ
【140】“こんな人たち”に屈するワケにはいかない
◆謝罪も質問も一切拒否した滋賀県警
4月2日に西山美香さんの再審無罪が確定した「湖東記念病院事件」。
このブログでは、滋賀県警は冤罪を作ったことを反省し、再発防止策に努め、デッチ上げに加担した捜査員を処分すべき…と書きました。
(その投稿はこちらです)
【137】「湖東記念病院事件」無罪!!but…冤罪を作り上げた連中をこのまま逃がすな!! - Free大助!ノーモア冤罪!
【138】「湖東記念病院」無罪を受けて「冤罪犠牲者の会」が声明を発表 - Free大助!ノーモア冤罪!
しかしその期待は、見事に裏切られました(本音を言えば、もともと期待していませんでしたが…)。
それどころか、滋賀県警は信じられないような蛮行に出てきました。どんな“蛮行”だったのか、京都新聞のリンクを貼っておきます。
全文は上記リンクをお読みいただくとして、記事の一部を抜粋します(カッコ内は私の補足)。
湖東記念病院患者死亡事案について、(滋賀)県警は15日までに、17日に予定される本部長定例会見で、一切の質問を受け付けないと記者クラブ側に通告した。
(中略)
17日は無罪確定後、初の本部長会見。(記者クラブの)幹事社は7日に西山さんへの謝罪や、取り調べ担当の刑事への恋愛感情を利用して「自白」を誘導するなどした捜査手法、再発防止策についてただすことを通告した。
しかし、同室(県警の総務課広報官室)は「会見では個別事案についてコメントしない。すでに刑事企画課が対応している」と拒否。代表質問を別のテーマにするよう求め、施策への関連質問以外は受けないとした。
県警は判決当日、刑企課の担当者が囲み取材で「無罪判決については真摯に受け止め、今後の捜査に生かしたい」などと繰り返すだけだった。
普段は警察の飼いイヌのような記者クラブですが、今回に限っては勇気のある通告を出したな!と思いました。
やはり再審無罪を勝ち取った上に、裁判所が捜査の在り方を断罪したという“お墨付き”の影響が大きいのかもしれません。
そして迎えた17日の本部長会見、滋賀県警の態度は変わりませんでした。ふたたび京都新聞のリンクを張っておきます。
西山さんは「謝罪せず、不当捜査への見解も示さない姿勢にあきれる。このままでは、また冤罪(えんざい)が生まれるのではないか」と批判している。
(中略)
再審の井戸謙一弁護団長(66)は「無罪判決が出た以上、組織のトップがけじめをつけなければならない。判決のどこを真摯に受け止め、どう捜査に生かすか全く分からない。改善を目指すならば、まずは謝罪だが今の対応では『自分たちは悪くないから謝りたくない』という心根が透けて見える」と指摘した。
西山さん本人と、井戸弁護士も批判しています。お2人の言うこと、ごもっともです。
こんな滋賀県警、このまま見逃して良いハズがありません。事件を支援してきた「国民救援会」などの人権団体が、シッカリ追求するべきです。
警察官(公務員)の責任を追求することは、私たちの当然の権利。日本国憲法にも、こう明記されています。
第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
そもそも滋賀県警に、回答を拒否する権利なんてないんです。
しかしこんな警察にしてしまった責任は、キチンと権利を行使してこなかった私たちにもあります。警察を健全な組織に変えられるかは、私たちの手にかかっているのです。
◆万が一冤罪に巻き込まれた時は“救援会の弁護士を呼んでください”
多くの冤罪犠牲者が語っていますが、警察の取調べというのは本当に過酷です。狭い取調室で屈強な刑事に囲まれ、机を叩かれ、怒鳴られ、時には暴力も振るわれる。
この苛烈さは、体験した本人じゃなければ分からないでしょう。
私だって、万が一取調べを受ける立場になったらどうなるか分かりません。絶望感で、やってもいない罪を自白してしまうかもしれません。
しかしそれでも、屈してはダメだ!と声を大にして言いたいです。
今回の滋賀県警の対応からも分かる通り、こんな汚い連中の言いなりになるワケにいきません。
考えてみれば、刑事というのは本当に情けない人たちです。取調室ではドスの効いた声で威張り散らすクセに、自分たちの間違いが明らかになったら謝罪を拒否し、ダンマリを決め込んで逃げる。
やったことに責任を取らない…自分で自分の尻拭いもできないなんて、警察官という以前に、社会人として失格だと思います。これは警察官個人の資質でなく、警察という組織全体の体質の問題かもしれませんが…。いずれにせよ、この人たちから国家権力を取り上げてしまったら、何も残らないでしょう。
自分の仕事に責任を持って生きている大多数の皆さんの方が、はるかに優秀で貴い存在です。
だから万が一、冤罪に巻き込まれて取調べを受ける状況になっても、絶対に屈しないでください!こんな人たちを恐れることなど、ありません。
否認していると “オマエの家族の所へ押し掛ける” といった脅しをかけてくるかもしれません。そんな時も “どうぞ押し掛けてください” と、毅然と対処するぐらいの気構えを持っておきたいですね。
そんなのは不可能だ、警察の怖さを知らないから、そんなコト言えるんだ…と、お叱りを受けるかもしれません。でもやはり、屈してはダメだ!なのです。
では万が一、何もしていないのに逮捕されてしまったらどうするか。冤罪支援者仲間から聴いたアドバイスを紹介します。
- まずは「日本国民救援会の弁護士を呼んでください」と、警察に伝える。
- 駆けつけてくれた弁護士を信頼する。
- 取調べでは「黙秘します」と伝えて、何も話さない。
弁護士を呼ぶのは私たちの権利。ちょっと信じられないかもしれませんが、ちゃんと伝えれば警察はこの申し出は拒否できないといいます。警察署から救援会に電話が行って、救援会がつながりのある弁護士を手配してくれます。
8年前に都内であった痴漢冤罪事件でのことです。逮捕された男性はたまたま救援会を知っていて、警察にこのように伝えました。すると弁護士がすぐに警察署に駆けつけ、それから毎日のように接見に来てくれたといいます。この事件、東京地裁では有罪(罰金刑)となりましたが、高裁で無罪を勝ち取ることができました。
また複数の冤罪犠牲者の体験談ですが “弁護士なんか信頼するな!” と、刑事が脅しをかけてくることもあるようです。これは動揺させて自白させるための作戦なので、黙秘して相手にしないのが賢明です。
この心構えを知っているだけでも、パニックになるリスクは軽減されるでしょう。
そして何よりも大切なのは、普段から司法のことに関心を持ち、問題意識を持って接することじゃないでしょうか。
取調べ可視化などの集会や学習会に参加したり、方法はいろいろあると思います。冤罪を生まないための取り組みに私たち1人ひとりが参加し、警察、検察、裁判所の在り方を含めた日本の司法を変えていくしかありません。
ちょっと感情的になり、取り留めがなくなってきましたが、今回はこのヘンで。
【139】こんな時こそ、いつもと変わらぬ関心を冤罪や司法に持ち続けよう
◆手紙は塀の中と外とつなぐ生命線、励ましのメッセージを送ろう
新型コロナウィルスの影響、皆さんはいかがでしょうか。私は自宅が仕事場なので外出自粛はそれほど関係ありませんが、仕事のスケジュールが延期になったりと、やはり無関係ではいられません。
冤罪の支援活動についても、集会や講演会が相次いで中止・延期になるなど、いろいろな影響が出ています。「守大助さん東京の会」も、行動が制約される中で何ができるか模索している状況です。
大助さんが収監されている千葉刑務所も、当面の間面会ができなくなりました。緊急事態宣言が解除されるまでとのことですが、それがいつになるのか分かりません。
ただし本の差し入れや手紙はこれまで通りOKなので、一安心です。
以前面会に行ったとき、大助さんはアクリル板ごしにこう言っていました。
「皆が面会に来てくれる時間が、本当に楽しみです」
当たり前といえば当たり前に聞こえるかもしれませんが、想像してみてください。
29歳で突然身柄を拘束され、一歩も外に出ることのないまま、気が付いたら間もなく49歳。刑務所内ではSNSもメールもできません。
そんな状況の中、塀の中の大助さんと外の世界をつなぐ、ほぼ唯一の接点が面会や手紙なのです。とくにFace to Faceで会える面会は、かけがえのない時間です。
その面会ができなくなった大助さんは本当に大変と思いますが、こうなった以上は手紙やハガキを出すしかありません。もし少しでも「北陵クリニック事件」に関心を持たれたら、ハガキ1枚でも出してください。
住所はこちらです。
〒264-8585
守大助 さま
- 「千葉刑務所」と書かなくても届きます。
- 官製ハガキ、絵ハガキ、普通の便箋・封筒をお使いください。
- 立体ハガキ、シールなどで装飾した手紙は、本人に渡らない恐れがあります。あくまでも普通&シンプルが基本です。
何を書いてよいか分からない場合は、自己紹介や事件に関心を持った理由を、簡単に書くだけで構いません。
おそらく冤罪犠牲者にとって一番ツライのは、世の中に忘れられてしまうこと。
“貴方の無実を信じている。再審の実現に向けてともに闘う” というメッセージは、これ以上ない力づけになるでしょう。
ただし、大助さんからの返事は期待しないでください。刑務所の規則で、大助さんが1ヶ月に出せる手紙の数は制限されています。そのため全ての支援者に手紙を出すのは不可能なのです。
◆政権が検察を“私物化”する法改正(改悪)が審議入り
新型コロナウィルスに目を奪われがですが、司法をめぐる動きには要注意です。
来週16日には「検察庁法改正案」が、衆議院で審議入りするといいます。改正の目玉は、検察上層部の人事に内閣が介入できるようにすること。これは権力者(政治家)による検察の私物化に他なりません。
コトの発端は、黒川弘務(ひろむ)東京高等検察庁・検事長の定年延長問題でした。どんな問題だったのか、簡単におさらいしてみます。
「検察庁法」とは、検察という組織をどう運用するかを定めた法律のこと。定年については、以下のように規定しています。
検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。(第二十二条)
黒川氏は今年2月8日で63歳になったので、検察庁法に従えば検察官を辞めるハズでした。しかし安倍政権は閣議決定によって、黒川氏の定年を延長すると勝手に決めてしまったのです。
実際に「東京高等検察庁(東京高検)」のHPを見ると、いまだに黒川氏が検事長に居座っています。
ここで検察の役職の呼び方について、整理しましょう。
あと、全国に50ある地方検察庁のトップは、検事正といいます。
そして「高等検察庁」の中でも「東京高検」は別格とされ、東京高検の検事長は検事総長への出世コースと言われています。
つまり安倍政権は黒川氏を次の検事総長にするため、定年延長という掟破りを行ったのです。その黒川氏は、こんな実績の持ち主です。
検察首脳として安倍首相の意向を踏まえて共謀罪などの実現に奔走し、森友学園問題における財務省の公文書改ざん事件でも、佐川宣寿元国税庁長官ら関係者全員の不起訴処分を主導したとされる。このため、政界では「安倍政権のスキャンダルをもみ消す官邸の番人」などと呼ばれてきた。(東洋経済オンライン 2020年2月8日)
そんな “官邸の番人” …いや、軽蔑の意を込めて “番犬” と言っておきましょう…である 黒川氏が検察組織のトップに君臨したらどうなるか、火を見るよりも明かです。
元経産官僚の古賀茂明氏は「政界捜査に当たる検察官は、他の官僚と違って政治の方を向いて仕事をしてはいけない」としつつ、「政権が検察のトップを決める力を持っていると示した。頑張って捜査をしてもトップにつぶされるとなれば、検察全体に士気の低下をもたらす。政権中枢に迫るような捜査はかなり難しくなるだろう」と懸念する。(中略)
また、「桜を見る会」を巡っては、背任容疑で安倍晋三首相の告発状が東京地検に提出されている。その検察組織のトップ人事に介入しようとするような政権のやり方は許されるのか。(東京新聞 2020年2月4日)
◆私たち市民こそ、検察に“介入”する方法を考えないと本当にヤバい
このような状況に対して “検察の正義が損なわれる” とか “検察への信頼が失われる” と危惧する声も聞かれます。
しかしこうした声に対しては “何寝ぼけたコト言ってるんだ!!”と、声を大にして言いたいです。
たとえば日本弁護士連合会(日弁連)は、こんな声明を出しています。
全文は上記リンクを読んでいただくとして、一番怒りを覚えたのが赤字にした以下の部分です。
この改正案によれば、内閣及び法務大臣の裁量によって検察官の人事に介入をすることが可能となり、検察に対する国民の信頼を失い、さらには、準司法官として職務と責任の特殊性を有する検察官の政治的中立性や独立性が脅かされる危険があまりにも大きく、憲法の基本原理である権力分立に反する。
このブログでも再三に渡って指摘してきた通り、これまで検察は多くの冤罪を作り上げてきました。デタラメな証拠で起訴し、時には証拠のねつ造も行い、裁判所が出した無罪判決や再審開始決定を妨害し、無実の人々を苦しめてきました。
これも繰り返し書いていることですが、たとえば「袴田事件」への対応。
無実が明らかな袴田巖さんを拘置所に再収監すべき=死刑台に連れ戻せ、と公然と言い放つのが、検察という組織なのです。
「袴田事件」を含む数多くの冤罪事件を支援してきた日弁連が “検察に対する国民の信頼” なんて、何を言っているのでしょうか。
ちなみに「日本国民救援会」も同様の抗議声明を出していますが、さすがに“信頼”とは書いていません。
(こちらのトップページより、2020年3月21日の声明をPDFファイルでご覧いただけます)
国民に本当に信頼される検察にするには、現在の異常な体質にメスを入れ、根本的に在り方を変えるしかありません。冤罪を作り上げた検察官に、ペナルティを課すといったルールづくりも必要です。
これに比べればトップが黒川になるか誰になるかなんて、どうでもいい小さなハナシです。ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが…。
検察を変えるには、私たち1人ひとりが検察の動向に目を光らせるしかありません。市民こそ検察に積極的に “介入” すべきです。そのために具体的に何ができるか、すぐに具体的なアイデアは思い浮かびませんが、引き続き考えたいと思います。
日比谷公園に面して立つ「中央合同庁舎6号館」。ここに最高検察庁、東京高検、東京地検、検察を管轄する法務省などが入る。近代的な建物の外観とは真逆の“野蛮人の巣窟”と言わせてもらおう。
【138】「湖東記念病院」無罪を受けて「冤罪犠牲者の会」が声明を発表
◆やはり検察、警察に自浄作用はなかった
本日(4月2日)、「湖東記念病院事件」西山美香さんの無罪が “正式に” 確定しました。
“えっ、3月31日の無罪判決で決まったんじゃなかったの?” と思うかもしれませんが、実はまだ検察が言いがかりを付けてくる恐れがあったのです。しかし本日、大津地検は上訴(控訴)権を放棄。これにより今度こそ、本当に無罪になりました。
報道によると、大津地検のコメントは以下のようなものだたっといいます。
「判決の内容を精査した結果、控訴しないと判断した」
一言で片付けるだけで、何故 “控訴しない判断” に至ったのかの説明も、西山美香さんに対する謝罪の言葉もナシです。
また、滋賀県の三日月大造(みかづきたいぞう)知事は定例会見で、このように語ったといいます。
殺人罪で服役した湖東記念病院の元看護助手西山美香さん(40)の再審無罪判決を受け、滋賀県の三日月大造知事は1日の定例会見で「刑事司法制度の在り方に大きな問題提起がされている」と述べた一方、県警に対し、西山さんへの謝罪や再調査を求める考えはないとした。
西山さんに関しては「長期にわたり、受けなくてもいい刑罰を受けたことを大変遺憾に思う」と語った。大津地裁が指摘した捜査の不当性について報道陣から見解を問われると、「しっかりと受け止めて今後に生かしていく」と述べるにとどめた。(京都新聞)
この知事さん、警察が怖いんでしょうか? 謝罪や再調査こそ、すべてに最優先させるべきじゃないでしょうか?
◆山本誠警察官の責任は重大です〜「冤罪犠牲者の会」の声明、全文紹介
無罪判決を受けて「冤罪犠牲者の会」も、声明を発表しました。とても素晴らしい内容なので、全文を紹介します。
とくに重要と思うポイントは、赤字にしました。
西山美香さんの再審無罪に関する緊急声明
昨日、大津地方裁判所は湖東記念病院事件と呼ばれる冤罪事件で犯人とさ れた西山美香さんに再審無罪判決を出しました。 私たち冤罪犠牲者の会は、当然の判決であり、 遅きに失した判決であるとはいえ、 また1人の冤罪仲間が救われたことを、 心から喜びたいと思います。
西山美香さん、おめでとうございます。ご家族の皆さん、おめでとうございます。この無罪判決を得るまで、 大変なご苦労をされた弁護団の先生方、本当にお疲れさまでした。 有り難うございました。また、 この闘いを支えてくれた国民救援会はじめ、 多くの支援者の皆さんにも感謝申し上げます。 有り難うございました。
昨日の判決を読みまして、私たちは司法のあり方として警察や検察、 裁判所や弁護士も含めての問題だと指摘した上、 自省を込めて冤罪問題に取り組むことを呼びかけた裁判所の姿勢を 歓迎します。
この「湖東記念病院事件」で西山さんの人間的弱さを利用して自白を生み出し、 作り上げた山本誠警察官の責任は重大です。そして、 事件ではなくて事故であるとの医師の鑑定を隠して事件に仕上げた 滋賀県警にも責任がありますのに、滋賀県警は「 捜査は適切であった」と開き直ります。
供述弱者である西山さんの「自白」と、その変転にある嘘を見抜けずに起訴して公判維持をした検察は、 事故の可能性を言う医師の鑑定が明らかになった再審裁判でも、 無罪論告もせず、詫びもせず、今回の無罪判決にも「 承服しがたい点がある」と反発する始末です。
私たち冤罪犠牲者の会は、冤罪を作り上げた当事者である警察官や検察官が、 何も責任を取らずに許されている日本司法のあり方こそ、 日本に冤罪を作り続ける元凶であると考えています。 だからこそ再審で無罪判決が出されても、それに反発したり、 認めないような不遜な態度を示すのです。 医師が患者を見誤り、手足を、
切り落として罪に問われないでしょうか。 新聞記者が事実をねじ曲げた記事を書いて責任を問われないのでし ょうか。 法曹三者の弁護士でも弁護を誤れば弁護過誤の責任を追及されます のに、なぜ警察官と検察官、それに裁判官は、 自らの誤りに詫びもせず、 責任も取らずに存在できるのでしょうか。
何人の冤罪者が無罪判決を得たならば司法は変わるのでしょうか。変えて頂けるのでしょうか。警察の行動を監視し、 検察の活動を監督する立場にもある国会と地方議会は、 この事態を改革するために行動してください。 冤罪を生み出す日本司法を変えるために、 証拠開示や検察の控訴権問題など、 冤罪を作り出す法律的欠陥を是正する行動をしてください。
私たち冤罪犠牲者の会は、今後も西山美香さんの闘いに寄り添い、責任を取れ、 責任を取らせる法律を作れの声を上げて捜査や司法に関わる人の責 任を問う法律制定を目指すことを誓って声明とします。
2020年 4月1日
冤罪犠牲者共同代表
青木恵子、藤山忠、矢田部孝司
共同代表の青木恵子さんは「東住吉事件」、藤山忠さんは「志布志事件」、谷田部孝司さんは「西武新宿線痴漢冤罪事件」の当事者。
警察や検察の卑劣さを身をもって体験した皆さんが立ち上げた会ならではの、リアルな憤りが込められた素晴らしい声明だと思います。
“山本誠警察官の責任は重大” と、実名で指摘もしています。“Y刑事”などと匿名にするケースも多い中、画期的だと思います。
警察官や検察官というのは公権力を行使する立場にあるわけですから、匿名にする必要はないと思います。たとえば安倍首相のことを “A首相” とか、菅官房長官のことを “S官房長官” なんて言ったりしませんよね。
「 冤罪犠牲者の会」のフェイスブックはこちら
【137】「湖東記念病院事件」無罪!!but…冤罪を作り上げた連中をこのまま逃がすな!!
◆無罪を言い渡した裁判長は「今市事件」の裁判官だった!!
本日(3月31日)、大津地裁で「湖東記念病院事件」の再審・無罪判決が言い渡されました。
西山美香さん、本当にお疲れ様でした!!
23歳で “ありもしない殺人事件の犯人” とされ、12年間の刑務所暮らしを余儀なくされ、ひたすら無実を訴え続けて現在は40歳。20代〜30代のほぼ全てを、冤罪との闘いに費やさざるを得なかったことを想うと、本当に言葉が出ません。
この事件、本ブログでも何度か紹介してきました。
(こちらのリンクをお読みください)
【30】クリスマスの日、守大助さんに面会してきました! - Free大助!ノーモア冤罪!
【68】最高裁要請、行ってきました!! - Free大助!ノーモア冤罪!
【104】やったぞ!!湖東記念病院事件、再審開始 - Free大助!ノーモア冤罪!
【116】「湖東記念病院事件」検察“有罪立証断念”の狙いとは? - Free大助!ノーモア冤罪!
【118】「湖東記念病院事件」滋賀県警は無実をわかってて逮捕か(怒) - Free大助!ノーモア冤罪!
これまでの経過や冤罪のポイントについては上記リンクに書いた通りですが、この事件の特徴を一言で言うと “つくられた冤罪事件” であるということ。つまり…、
- 患者さんの病死を“殺人”と思い込んだ警察(滋賀県警)が事件をデッチ上げた。
- その過程で “鬼畜・外道” としか呼びようのない捜査・取調べが行われた。
滋賀県警の所行についても、上記リンクに書いた通りです。本日の判決はこれらの問題にもシッカリ向き合い、二度と冤罪を作らないよう自戒を込めた内容だったといいます。
そもそも事件性を認める証拠はなく、患者は不整脈や痰を詰まらせ、死亡した可能性があると指摘。西山さんが犯行を認めた捜査段階の自白も警察官による誘導がうかがえるとして「無罪」を言い渡した。(読売テレビ)
裁判長は無罪判決を読み上げた後、こう述べたといいます。
「この事件は司法制度や裁判に大きな問題提起をした。刑事事件に関わる全ての人たちは重く受け止めなければならない」
(西山さんに向かって)「もう嘘は必要ありません。等身大の姿で自分を大事にして生きてください」(日本経済新聞)
このすばらしい裁判長の名前は、大西直樹さん。
調べてみると、今年1月に大津地裁に来る前は東京高裁にいました。そこでは何と…「今市事件」の無期懲役を下した裁判官の1人に名を連ねていました。
【132】「今市事件」②有罪ありきの八百長裁判 - Free大助!ノーモア冤罪!
藤井敏明(裁判長)、田尻克巳(裁判官)、大西直樹(裁判官)
本当に同一人物なのだろうか…と、愕然とするしかありません。ある事件で良い判決を出しても、他の事件では真逆の判決を出すのは、実はよくあること。裁判官というのは、本当に油断ならない人種です。
◆滋賀県警の責任追及ナシに、幕を下ろすことはできない
今日の無罪は本当に嬉しいことです。しかし “良かったね!” で終わらせるワケには行きません。
無罪の獲得はゴールでなくスタート。次のステップとして大西裁判長の「この事件は司法制度や裁判に大きな問題提起をした。刑事事件に関わる全ての人たちは重く受け止めなければならない」という言葉を具体化していかなければなりません。
とくにやるべきは滋賀県警の責任を追求し、冤罪を生んだ原因を明らかにすること。まずは2つのことを、県警本部に対して要請すべきです。
- 冤罪を作ったことを真摯に反省し、再発防止策を講じること。
- 山本誠刑事(当時)に然るべき処分を下すこと。
“山本誠って誰?” という方は、上の過去記事のリンクをお読みください。現在は、琵琶湖のほとりにある長浜署の刑事課長に出世しているようです。
ちなみに当の滋賀県警は、こんなコメントを出しています。
大津地裁が無罪判決を言い渡したことを受け、滋賀県警の担当者は報道各社の取材に「真(しん)摯(し)に受け止め、今後の捜査に生かしてまいりたい」と述べた。
担当者は判決について「評価する立場にはない」としつつ、「問題点のある違法な捜査だったとは思えない」との見解を示した。
報道陣からは「今でも西山さんを犯人だと思っているのか」「冤(えん)罪(ざい)ではないという認識か」などの質問も相次いだが、「コメントは差し控える」とした。(産経新聞)
“真摯に受け止める”と言う一方で、“捜査に問題はなかった” と平然と言い放つ傲慢さ(怒)!! やはり警察に自浄作用を期待するのは無理なようです。
責任追及の方法として考えられるのが、国家賠償請求を起こして県(警察)や国(検察)を訴えること。「布川事件」の桜井昌司さんや「東住吉事件」で再審無罪を勝ち取った青木恵子さんは、国賠を闘っています。
しかし国賠を起こすとなると、また長い時間と多大な労力を裁判に費やさなければなりません。西山美香さんの負担を考えると、安易に“国賠をやれ” とは言えません。
こんな時こそ、事件を支援してきた「日本国民救援会」や「再審・えん罪事件全国連絡会」の出番なハズ。また昨年3月に結成された「冤罪犠牲者の会」は、実現目標の1つをこう明記しています。
- 捜査関係者・裁判関係者(証拠のねつ造・改ざんに関与した者)の責任追及
(会のHP)
これらの人権団体が担うべき役割は、大きいでしょう。
マスメディアにも頑張って欲しいと思います。地元紙として西山美香さんに寄り添う記事を書いてきた「京都新聞」や「中日新聞」 、そして今回記事を引用させてもらった「産経新聞」。再審無罪で終わらせるのでなく、取材を続けて冤罪を生んだ闇に迫って欲しいです。
そして「北陵クリニック事件」の支援者である私たちも、今回の再審無罪には勇気づけられました。「守大助さん東京の会」は、冤罪のない社会の実現に向けて何ができるかを引き続き考え、行動していきます。
無罪判決を受け、裁判所前でホッと一安心の表情を見せる西山美香さん(中央)。周囲では「日本国民救援会」の黄色いノボリがはためいている。(写真は日本国民救援会HPより)
【136】「大崎事件」クラウドファンディングに、ご協力お願いします!!
◆第3次の終結から1年未満で第4次へ!!
本日(3月30日)、「大崎事件」の4回目の再審請求が鹿児島地裁に申し立てられました。
申立終了後に行われた報告集会は、新型コロナウィルスの影響でライブ配信となりました。私もYouTubeで観ましたが、所々音が不鮮明で内容の全てを理解できませんでした。
しかし何はともあれ、弁護団の奮闘ぶりには、ただ頭が下がる想いです。
最高裁が第3次の再審請求を取り消し・棄却したのが、昨年の6月。それから1年未満で第4次を申し立てたことは、本当に凄いと思います。
再審請求の際には、確定した判決が疑わしいと思わせるだけの新しい証拠を “その都度” 出さなければなりません。以前の再審請求で出した証拠の再利用は、基本的にNG。このことも、再審のハードルを高くしている要因だと思います。新しい証拠なんて、そうポンポン出せるわけがありませんから。
だから「大崎事件」弁護団のスピード感には、本当に目を見張ります。93歳になった原口アヤ子さんの “何としても命あるうちに!” という強い決意が伝わってきます。
弁護団も拡充し、闘いは続きますが、それにはお金がかかります。
冤罪事件で活躍している弁護士さんは、ほとんどが手弁当だといいます。「大崎事件」は日弁連(日本弁護士連合会)の支援を受けているので、同会からの資金援助も受けられます。比較的恵まれたケースとは思いますが、それでも決してラクな状況ではないと思います。
そこで第4次再審請求を支援する、クラウドファンディングが立ち上げられました。
3月30日の夜10時現在、目標額500万円に対して、62%の3,137,000円が集まっています。
100%達成に向けて、皆さんもご協力をお願いいたします!!
こちらのリンクから、お願いします!!
◆知ってしまった以上は…周防正行監督の想い
クラウドファンディングを立ち上げたのは、映画監督の周防正行さん。痴漢冤罪をテーマにした『それでもボクはやってない』(2007年)を撮ったのを機に、絶望的な日本の司法を何とかしようと、幅広く活躍されています。
いろいろな集会で顔を合わせる機会も多く、前回のブログで紹介した「今市事件」の支援にも関わっています。私はまだ挨拶を交わした以上の交流はありませんが、本当に情熱を持って活動されている様子が伝わってきます。
作品を撮ったら終わりでなく、本格的に活動に身を投じる姿勢には、ただ感服するしかありません。
「大崎事件」弁護団の1人である亀石倫子弁護士が、こんなツイートをしていました。
周防正行監督に「なぜ『それでもボクはやってない』を撮ろうと?」と訪ねたとき、「知ってしまった以上、もう知らなかったことにはできないと思った」と答えてくれた。私も同じだった。日本の刑事司法のおかしさを知ったら、もう戻れない。知らんぷりはできない。だってそこに、犠牲者がいるのだから。
おこがましいのを承知で、私も言わせていただきます。
私が「北陵クリニック事件」をはじめとする冤罪事件の支援に関わる理由も、まったく同じです。
なぜ、冤罪の支援なんかするの?と聴かれれば、“そこに冤罪があるから” としか答えようがありません。
“知らなかったことにはできない” という想い、本当によくわかります。活動するのはもはや本能としか言いようがなく、止めることはできません。
というわけで引き続き一市民として、日本の司法や冤罪について、想ったこと感じたことを発信していきます。
(大崎事件について、過去に書いたブログです。事件の概要など)
【103】沈黙の最高裁〜「大崎事件」弁護団激励行動に参加して〜 - Free大助!ノーモア冤罪!
【111】「大崎事件」再審取消の裏にある許せないハナシ - Free大助!ノーモア冤罪!
【112】「大崎事件」最高裁決定に対する各団体の声明 - Free大助!ノーモア冤罪!
「大崎事件」第4次再審にのぞむ弁護団。前列の左端が亀石倫子弁護士。その右は「足利事件」で再審無罪を勝ち取った佐藤博史弁護士、事務局長として大活躍の鴨志田裕美、弁護団長の森雅美弁護士。その右後ろの八尋光秀弁護士は、死刑が執行されてしまった「福岡事件」や「菊地事件」の再審も闘っている。