Free大助!ノーモア冤罪!

「北陵クリニック事件・無実の守大助さんを守る東京の会」事務局長の備忘録〜素人の素朴な目線から冤罪を考える〜

【173】冤罪支援の原動力は、愛しみ(かなしみ)と絆

◆冤罪仲間を想い、1人で街頭に立って署名

2月21日の「中日新聞」に、冤罪「湖東記念病院事件」西山美香さんの記事が出ました。

その記事の全文が、記者さんのFacebookにアップされています。

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(こちらの中日新聞公式サイトにもアップされていますが、全文読むには会員登録が必要です)

www.chunichi.co.jp

記事によると西山さんは1人街頭に立ち、同じ滋賀県で起きた冤罪「日野町事件」の署名を集めているといいます。本当にすごいと思います。並大抵の覚悟では、できないでしょう。

西山さんについては、当ブログでも何回かにわたって書いてきました。

【137】「湖東記念病院事件」無罪!!but…冤罪を作り上げた連中をこのまま逃がすな!! - Free大助!ノーモア冤罪!

西山さんは再審無罪が確定するまで、毎回のように最高裁への要請活動に参加していました。たった数分の要請のため、わざわざ滋賀県から東京まで足を運んでいたのです。

私も「北陵クリニック事件・守大助さん」の再審開始を訴えるべく(2019年11月に棄却されてしまいましたが…)最高裁に足を運び、よく西山さんと顔を合わせました。

西山さんは対応に出た最高裁の職員さんに対して「私はやっていない。一刻も早く再審を確定して欲しい」と、切実な気持ちを訴えていました。

そして自分の要請が終わった後、「私だけでなく、他の冤罪事件のことも考えてほしい。お願いします」、と必ず言い添えていました。自分のことだけで精一杯なはずなのに、他の冤罪仲間のことまで気遣う姿勢に、涙が出るほど感銘を受けました。

西山さん自身、滋賀県警の取り調べや、裁判で受けた苦しみが大きく、同じ苦しみを味わったであろう人たちのことを、とても他人事とは思えなかったのでしょう。

(取り調べについては、こちらに書きました)

【116】「湖東記念病院事件」検察“有罪立証断念”の狙いとは? - Free大助!ノーモア冤罪!

人間誰しも「忘れられない感情」があるといいます。冤罪犠牲者が背負う「悲しみ」は、まさにその典型でしょう。いくら無実を訴えても「オマエが犯人だろう!」と言われる悔しさと絶望感は、心の傷となってずっと刻まれるに違いありません。

しかもそれを国家権力にやられるわけですから、想像を絶する苦痛が伴うと思います。

しかしその反面、こんな真理もあるといいます。

・人は悲しみに反応して、絆を深める。

・悲しみは“愛しみ”とも書く。

これは最近、お世話になっているある先生から学んだことです。

この感情を、冤罪支援の先輩は「惻隠(そくいん)の情」と表現していました。

「惻隠の情」を辞書で調べると「哀れに思う気持ち。可哀想であると感じる気持ち」と、出てきます。ただし「哀れに思う」ことだけで終らず、その人が受けたであろう悲しみに感情を揺さぶられ、共感を持って寄り添い、「絆」を深めることに、本当の意味があるのだと思います。

まさに見返りを求めない「愛(あい)」にも似た感情。西山さんの取った行動も、これに近いものかもしれません。

また「布川事件」の桜井昌司さん、「東住吉事件」の青木惠子さんも自身の再審無罪が確定した後に「冤罪犠牲者の会」を立ち上げ、全国の刑務所や拘置所を回って無実を訴える人たちを励ましています。本当に頭が下がります。

(冤罪犠牲者の会HP)

enzai.org

 ◆私を冤罪支援に駆り立てる「忘れられない感情」

私自身が冤罪の支援活動に参加する理由については、こちらに書きました。

 社会問題は「自分ごと」。法律素人の私が冤罪の支援をする切実な理由

この記事では「冤罪は人ごとでなく自分ごと」を理由としましたが、まだまだ説明不足でした。実はもっと深い原体験が、小学生時代にありました。

 当時の私は皆よりも声変わりが早く、体の発育が早かったせいか、周囲から少し浮いていました。そのせいか、クラスメイトから「痴漢」と言われるようになりました。そして自分は何もしていないのに、“体育の前に女子の着替えを覗いてニタニタしていた”とか、いろいろと濡れ衣を着せられました。

私がこの時に味わった、やっていないことを“やった”と言われ、痴漢呼ばわりされる屈辱感は、今でも心の奥底に染み付いています。もう数十年前の出来事ですが、今でも当時の記憶が蘇って怒りが込み上げてきます。

なので痴漢冤罪をテーマにした映画『それでもボクはやってない』は、人には勧めますが私自身積極的に観るつもりはありません。観ると正常な精神状態を保っていられなくなります。

そしてこの「忘れられない感情」こそが、私を冤罪支援の道に駆り立てる原動力になっているのだと気づきました。

こんな私の些細な体験と、国家権力によって「犯人」の烙印を押される冤罪では全然レベルが違うでしょう。しかし心に深い傷を受けたことは変わりませんし、その傷に対する想像力を働かせれば、1%ぐらいは冤罪犠牲者の気持ちに寄り添えるのではないかと思っています。

「なんで冤罪支援なんかやるの?」という人に活動を理解してもらうにはどうするか? そのためには感情を揺さぶり「愛しみ」と「共感」の輪を広げるしかないかもしれません。

SDGs(持続可能な開発目標)」18番目のゴール「えん罪のない社会を実現しよう」。えっ、SDGsのゴールって17個だったよね?と思うかもしれません。その通り、私が勝手に作ったゴールです。これについては、改めて書きます。

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【172】コロナ禍の千葉刑務所

◆大助さんもPCR検査

ニュースでご存知かと思いますが、守大助さんが収監されている千葉刑務所で、新型コロナウイルスクラスター(集団感染)が発生しました。昨日(2月8日)の段階で感染者は90名に達しているといいます。

お母様によると、大助さんはPCR検査を受けたようです。また、大助さんが刑務作業を担当している炊事班は、他の受刑者と接触しないようワンフロアで過ごしているとのことです。

千葉刑務所には「今市事件」の勝又拓哉さんも収監されています。大助さんと同じく無期懲役で、再審請求を待っています。先週、面会のために刑務所を訪れた支援者によると、拓哉さんも「検査」(おそらくPCR検査)を受けることになり、急きょ面会が中止になったそうです。結果が気がかりです。

刑事収容施設における人権状況を監視する「監獄人権センター」というNPO法人があります。同センターは千葉刑務所の感染状況をとても危惧しており、法務省に対策を求めています。一番下にその記事のリンクを貼っておきます。

ちなみに、一般的に「医療」といえば厚生労働省の管轄ですが、刑務所の医療は法務省です。シッカリ対応して欲しいと思います。

◆読ませたくない記事は黒塗りにして受刑者に

ただでさえ自由が制限され、受刑者が自分の知りたい情報にアクセスできない刑務所。大助さんと拓哉さんには、支援団体の「日本国民救援会」が毎月会報誌を差し入れています。大助さんによると、時折記事が黒塗りにされて渡されることがあるそうです。たぶん拓哉さんの記事だろうとのことです。

となると拓哉さんには、大助さん関係の記事が黒塗りにされて渡されているに違いありません。同じ刑務所に収監されている冤罪仲間の情報を遮断して、一体どんなメリットがあるのでしょうか?

こうした意味不明な処遇改善を働きかけるのも、支援者の大切な仕事。これは何とかしたいです。

今はただ、感染した受刑者・職員の皆さまの回復と、これ以上クラスターが広がらないことを祈るばかりです。

news.yahoo.co.jp

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【171】明日1月9日は「日野町事件」Webセミナーをご視聴ください

◆Webを通して若い世代に関心を広げよう

2021年になって早くも1週間、新型コロナウイルス感染症は一向に収束の兆しが見えません。集会や学習会の中止など、冤罪の支援活動も引き続きいろいろな制約を受けることになるでしょう。

一方で、新しい試みであるZoomやYouTubeを活用したWebセミナーが、思わぬ効果を生んでいます。インターネットを通して、これまで冤罪にあまり縁がなかった若い方が関心を持ってくれるようになったのです。

昨年行われた「大崎事件」と「袴田事件」のWebセミナーも好評だったようで、これら2事件のクラウドファンディングには20〜40代からたくさんの寄付が寄せられたといいます。

日本の司法の醜い事実を知って「何とかしなきゃ!」と行動を起こす人が沢山いるという事実に、とても勇気づけられました。

そして明日(1月9日)の午後2時からは「日野町事件」のWebセミナーが開催されます。下記のYouTubeリンクより、ぜひご視聴ください。

(記事は下に続きます)

www.youtube.com

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◆“最悪の冤罪”「日野町事件」、再審ですべてを明らかにするしかない!

世の中にたくさんある冤罪事件はどれも最悪ですが、中でも「最悪の1つ」と言えるのが「日野町事件」です。

事件の概要などは明日のWebセミナーをご覧いただくとして、とにかく冤罪を生み出す最悪のパターンがいくつも重なってデッチ上げられた事件なのです。

  • 警察によるアリバイつぶしと証拠の捏造
  • 検察と裁判所が結託しての有罪・無期懲役
  • マトモな審理を行わずに1度目の再審請求を棄却
  • 刑務所の不十分な医療体制の中で獄死

「日野町事件」における司法の鬼畜っぷりは半端ではありません。しかしそこに加担した警察官、検察官、裁判官は誰も処罰されることなく、のうのうと出世した輩もいるといいます。

下の写真に写っているのが「日野町事件」の冤罪犠牲者である阪原弘(さかはらひろむ)さんです。阪原さんは2011年に無実を訴えたまま、75歳で亡くなりました。その前年、私はある集会で「お父ちゃんにちゃんとした医療を受けさせたい」と涙ながらに訴えるご家族の姿を目にしました。現在はご家族が阪原さんの遺志を受け継いで、2度目の再審請求を闘っています。

もう阪原さんはこの世にいませんが、何としても再審を実現させ無罪を勝ち取って欲しいと願っています。そのためには、多くの方に事件を知っていただき、世論を盛り上げることが必要です。ぜひ明日のWebセミナーをご視聴ください!

「日野町事件」を紹介したパンフレット。この時の写真の撮影時、阪原さんは体調を崩して入院。退院後に広島刑務所に収監された。

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【170】「北陵クリニック事件」発生20年、守大助さん50歳を迎えて

昨年も読んでいただき、ありがとうございました。12月は1回も更新しなかったにもかかわらず、1000を超えるアクセスをいただきました。感謝しかありません。

引き続き、日本の刑事司法の絶望的な状況を1人でも多くの方に知っていただけるよう続けます。改めまして、よろしくお願いいたします。

12月16日に、約1年ぶりに守大助さんに面会してきました。新型コロナ感染対策のため手続きに少し時間がかかりましたが、千葉刑務所の職員さんは丁寧に対応してくださり、無事に面会できました。

大助さんは顔色が良く、とても元気そうで「阿部泰雄弁護士と一緒に闘うだけです!」と決意を語っていました。2021年1月6日で事件発生(正確に表現すると事件が警察にデッチ上げられて)から20年。逮捕当時29歳だった大助さんは4月に50歳を迎えます。

元気でいられるのも限界があるでしょう。一刻も早い第二次再審請求と万全の勝利に向けて、引き続き支援活動に力を注ぎます。

以下に大助さんのご両親からいただいた年賀状を紹介します。もう多くを語る必要はないかと思います。ご両親も70代半ばとなり、大助さんは折に触れて「何としても両親が元気なうちに帰りたい」と語っています。

これだけ無実が明らかな事件で、なぜこれほどまでに時間がかかるのか? なぜ警察・検察は沈黙を続け、裁判所は公正な審理から背を向け続けているのか?

冤罪は決して他人事でなく「自分ごと」。私たち自身が第二・第三の大助さんにならないためにも、日本の司法を絶対に変えましょう!

 

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【169】守大助さんから、2020年最後のメッセージ

■奪われた時間を喜びに変えられるように、一緒に闘ってください

約1ヵ月ぶりの更新となりました。千葉刑務所の守大助さんからの手紙を紹介します。いつも通り阿部泰雄・弁護団長を経由して、全国の支援者に届けられました。

今年も暖かいご支援をいただき、有り難うございました。

皆さんの支えがあり、私は闘うことができています。

第二次再審請求・仙台地裁で「再審開始・釈放」を決定させます!!

私は絶対に!筋弛緩剤を混入していません!

はや一年の締めくくりの月を迎え、皆様にはお忙しく、ご活躍のことと拝察いたします。今年は新型コロナ騒動によって、全国での外出自粛要請・動きが取れない中で、各支援する会で独自の学習会、支援要請していただき、感謝の気持ちでいっぱいです。この状況の中、48ヶ所目の支援会「知多半島の会」が結成され、とても嬉しく、心強くなっています。強制留学も12年。私は悔しさ、怒り、悲しみの中で、この生活を耐えています。

第一次再審請求が最高裁で棄却されて一年。不公平な裁判がされ、とんでもない判断が許され続けています。刑事訴訟法を守らない裁判官が裁かれるべきです。この空の下にあるはずの自由が、医学を、科学を無視した裁判官独自の判断で奪われたんです。ここ数年、両親は体調を崩しています。元気なうちに帰りたいです。

第二次では裁判官に、ちゃんと専門家の意見を聞いて、医学・科学的に判断してほしい。1日でも早く、家族たちと抱き合い、奪われた時間を喜びに変えられるように、一緒に闘ってもらえませんか。2021年も皆様のお力を貸して下さい。助けて下さい。

2020年12月 無実の守大助

 第二次再審請求の申し立てがいつになるのか現時点でまだわかっていませんが、弁護団は必勝を目指して準備を進めているはずです。

そして手紙で触れられているとおり、愛知県・知多半島に48番目の支援組織が結成されました。北海道から高知まで、これだけ全国に支援の輪が広がっている冤罪事件は、他にはありません。

(記事は手紙の下に続きます)

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■点滴に筋弛緩剤で犯行はできない〜隠された無実の証拠〜

大助さんの支援者仲間が、こんな新聞記事があったと送ってくれました。今から15年前、まだ裁判が進行していた2005年6月の「河北新報」の記事です。

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記事では「筋弛緩剤点滴事件」などと報じられていますが、筋弛緩剤は一滴も使われていません。大助さんが「点滴に筋弛緩剤を投与したとされる」患者さんの急変原因は、いずれも病気や抗生物質の副作用によることが、患者さんを担当した主治医の証言で明らかになっています。

もう何度も繰り返し書いてきましたが「北陵クリニック事件」は便宜上「事件」と呼んでいますが、そもそも事件ではありません。単なる急変を「筋弛緩剤を使った凶悪犯罪」と勝手に思い込んだ宮城県警が、基本的な裏付け捜査さえ行わずに大助さんを逮捕し、ありもしない「事件」をデッチ上げたのです。
そして筋弛緩剤は静脈への注射によって投与されるのが普通で、点滴液に混入させても生命を奪ったり重症に至らしめるのは不可能と指摘されていました。

何と宮城県警はコッソリと実験を行い「筋弛緩剤による犯行は不可能」という結論を得ていたらしいのです。

しかし現在に至るまで、検察はこの記事に書かれている実験結果を開示せず、裁判所は実験を行なった助教授の尋問を行わないまま「無期懲役」を維持し続けています。

  • 一度逮捕したら、デタラメな証拠をデッチ上げてでも犯人に仕立て上げる警察
  • 無実の可能性を示す証拠を隠し続ける検察
  • そんな警察、検察を庇うように真実から目を背け続ける裁判所

この3者が行ったことは、まさに万死に値する行為です。最近ある殺人事件(冤罪ではないようです)の裁判で、検察は「被告人の行為は万死に値する」と言って死刑を求刑したそうです。一体何様のつもりで……。これまでさんざん冤罪を作り上げてきた検察こそ「万死に値する」のではないでしょうか。

何としても大助さんの再審を実現させ、この連中に正当な捌きが下るよう、引き続き活動を頑張ります。

 

 

 

 

【168】「松橋事件」4人の犠牲者

■「松橋事件」アーカイブ

昨日(10月29日)、とても悲しいニュースがありました。「松橋(まつばせ)事件」の宮田浩喜(こうき)さんが亡くなりました。87歳でした。

宮田さんは逮捕時の1985年は52歳、2019年3月に再審無罪を勝ち取るまで30年以上、人生の後半ほぼ全てを冤罪との闘いに費やさざるを得ませんでした。晩年は認知症を患い寝たきりだったといいますが、一体どんな想いで旅立たれたのか…心中を察すると言葉が出ません。

9月には弁護団が「宮田さんは違法な捜査などで長期間、拘束されて精神的苦痛を受けた」として、約8500万円の損害賠償金を熊本地裁に提訴したばかりでした。

実はこのブログで、もっともアクセス数が多いのが「松橋事件」関連の記事でした。7本書いたので、改めてリンクをまとめておきます。

(記事はリンクの下へ続きます)

daisuke0428.hatenablog.com

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被害者とその家族も同じ“冤罪犠牲者”

「松橋事件」の犠牲者は、宮田浩喜さんだけではありません。

まずは被害者となった当時59歳の男性。この男性と宮田さんは、将棋仲間だったといいます。そして事件の3日前にお酒を飲んだ勢いで口論になったことが、宮田さんが犯人と疑われるきっかけになりました。

どのような経緯で生命を奪われたのか、今となっては知る由がありませんが、真犯人が捕まらずに事件から35年が経過してしまっては、とてもではありませんが浮かばれないでしょう。

被害者男性には、長女がいらっしゃいます。「西日本新聞」の記事を見つけたので、リンクを張っておきます。

松橋事件 再審無罪へ(中) 誰が父を殺したのか|【西日本新聞ニュース】

被害男性長女「あっけない」 松橋事件再審結審|【西日本新聞ニュース】

“自分の父がどのように殺されたのか?” 真相がわからず仕舞いで過ごすのが、どんなに辛いことか。想像を絶する苦しみに違いありません。宮田さんの再審無罪に対して、複雑な心境になるのも無理はないでしょう。

ここで「松橋事件」から少しハナシがそれますが、マスメディアにお願いがあります。私は被害者家族も同じ冤罪犠牲者だと思っています。なので無実を訴える被告人サイドと、家族を失った被害者サイドの対立や分断を煽るような記事は、配信しないでいただきたいと思います。

上記の西日本新聞の記事はそうでもありませんが、守大助さんの「北陵クリニック事件」の報道は、非常に醜いモノでした。筋弛緩剤を “投与されたとされる” 5人の患者さんのうち、当時11歳だったA子さんは意識が戻らず、現在も寝たきりです。そして大助さんが裁判で無実を訴えるごとに、マスメディアはA子さんのお母さんの「守被告は罪を認めてほしい」というコメントを報じました。

娘さんの状況を想えば、このように言いたくなる心情は理解できなくもありません。お母さんの筆舌に尽くしがたい苦しみに対して、私のような者が軽々しく意見すべきではないことは十分に承知しています。しかし「北陵クリニック事件」は冤罪であり、守大助さんは無実です。悪いのは杜撰なデッチ上げを行った警察と、それを追認した検察、裁判所です。

マスメディアはこの現実にしっかり目を向けて、配慮した報道を行ってほしいと思います。

本当に被害者サイドが「罪を認めてほしい」と言ったとしても、発言をそのまま流すのはやめてほしい。もしこれが双方の言い分を公平に伝える「両論併記」などと思っているなら、トンデモない間違いです。こうした無神経は報道は、無実を訴える被告人サイドの切実な声を貶め、被害者サイドの傷をいたずらに広げるだけで、何も生み出しません。

■ご長男の冥福を祈るとともに「加害者家族」にもスポットを

4人目の犠牲者が、宮田さんのご長男であった貴浩(たかひろ)さん。施設で寝たきりになった宮田さんを支え、ともに再審請求を闘った貴浩さんは、2016年に熊本地裁の再審開始決定を受け、新聞の取材にこうコメントしています。以前も紹介しましたが、再掲します。

「捜査に当たった警察、検察の関係者も、父と同じ期間を刑務所で過ごしてほしい。そうでなければ冤罪はなくならない」(2016年7月1日/毎日新聞

貴浩さんは2017年9月、病気のため61歳で亡くなりました。高齢で寝たきりの父を残し、無罪の確定を聞く前に他界してしまった無念さは、計り知れません。本当に貴浩さんがコメントした通り、冤罪をデッチ上げた警察官や検察官には何らかのペナルティが課されるべきだと思います。

昨年結成された「冤罪犠牲者の会」は、「捜査関係者・裁判関係者(証拠のねつ造・改ざんに関与した者)の責任追及」を目標の一つに掲げています。本当にこれは実現させなければならなりません。

enzai.org

貴浩さんは父親が殺人犯とされてしまったことで、いろいろと苦労したようです。冤罪は当事者だけでなく、その家族の人生まで狂わせてしまうと言われる所以です。

しかし本来は、冤罪であろうと本当に罪を犯していようと、家族が罪を背負わなければならない道理はないはずです。“犯罪者の子どもや兄弟”という理由で差別や迫害を受ける日本社会の状況を、まずは何とかするべきでしょう。

「加害者家族問題」も冤罪と同様に、個人の尊厳を著しく傷つける人権侵害という点で変わりません。支援活動に乗り出しているNPOもあり(下記リンク)、私自身具体的に何ができるかわかりませんが、関心を持ち続けたいと思います。

www.worldopenheart.com

無念のうちに旅立ったであろう、宮田浩喜さんのご冥福を祈ります。(画像はRKK熊本放送ニュースより)

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【167】裁判所に“NO!!”の鉄槌を〜「今市事件」シンポジウムを視聴して〜

■豪華メンバーがパネリストに集結

前回のブログで紹介したシンポジウム「今市事件は終わっていない〜誤った有罪判決を斬る〜」を、YouTubeで視聴しました。

youtu.be/tVLzrBFUAxE

“有罪判決を斬る”というタイトルどおり、無実の勝又拓哉さんを無期懲役にした裁判がいかに酷いモノであったかを、パネリストとして登壇した法律の専門家らが掘り下げました。

〈パネリスト〉

  • 木谷 明:元東京高裁判事、弁護士
  • 白取裕司:北海道大学名誉教授、神奈川大学教授、弁護士
  • 豊崎七絵:九州大学教授
  • 周防正行:映画監督、「再審法改正をめざす市民の会」運営委員
  • 今村 核:弁護士(今市事件元弁護人)

いずれのパネリストも、冤罪関係の大きな集会でお見かけする方ばかりです。単独の事件のシンポジウムで、これだけのメンバーが一堂に集まったのはスゴいことだと思いました。それだけ「今市事件」の裁判が異常だったということでしょう。

まさに一流といえるメンバーだけあって、2時間ギッシリ濃い内容が詰まったシンポジウムでした。その一方で、虚しさを感じたのも事実です。

■シンプルに“バカヤロー!!”と声を上げることも必要だ

何が虚しいかというと “それ以前のハナシ” だからです。パネリストの皆さんはそれぞれの専門分野である法律や学問の知識や経験を駆使して、裁判の過ちをロジカルに指摘しました。

しかし裁判所の所業は、法律や学問うんぬんで語る以前のレベルだと思います。

例えるなら、幼児の落書きした絵に対して、高名な美術評論家や画家が真面目に議論するようなものです。

裁判官の頭の中にあるのは、被告人を有罪にすることだけ。法律のプロとしての最低限の仕事さえしておらず、公正な裁判をやる気など、最初からゼロとしか思えません。これが「今市事件」や「北陵クリニック事件」、その他の冤罪を見てきた私の率直な印象です。

本来なら最も厳格に法律を守るべき裁判所が、最大の無法地帯と化しています。“裁判所がしっかりしないから、警察も検察もやりたい放題で冤罪をデッチ上げるんだ” と口にする冤罪犠牲者も少なくありません。

そんな最低限のルールさえ守ろうとしない連中が行ったゴミクズ同然の裁判に対して、証拠構造や事実認定がどうのこうのと真面目に議論する意味があるのか……。

もちろん法律家や研究者の皆さんには心から敬意を表していますし、見返りを求めずに心血を注いで活動していることには大変な感銘を受けています。そして論理的な分析が大切なことは百も承知です。

しかしそれだけでは、冤罪をなくす運動は前進しないと思うのです。

では何が必要か? それは私たちが“バカモン!!”と、裁判所に対してストレートに怒りの声を上げること。これは法律家や研究者ではない“素人”である、私たちの使命だと思います。

何故なら、司法や冤罪の問題というは ”自分ごと” だからです。いつどこで、私自身や大切な誰かが、杜撰な捜査や裁判によって犯人にデッチ上げられてしまうかわかりません。勝又拓哉さんや守大助さんに起きたことは、決して他人ごとではないのです。

冤罪支援を行っている人権団体「日本国民救援会」は、おかしな判決や決定が下されるたびに、担当裁判官に抗議の電報やハガキを送るよう呼びかけいます。しかし十分な影響力を発揮しているとは言えません。多少抗議の声が届いたからといって痛くも痒くもないというのが、連中の本音でしょう。

世の中では “裁判所は正しい。裁判官は公正な判断をしてくれる” という認識がまだまだ多数派のようです。私が支援に関わっている「北陵クリニック事件」についても “警察が逮捕して裁判所が有罪としたのだから、守大助は犯人だ。冤罪なんてあり得ない” と言われたことがあります。

こんな誤った認識を変えるためにも、もっと声を大にして日本の司法の異常な実態を伝えていかなければならないと思います。時にはストレートな怒りを、裁判所が変わらざるを得ないぐらいの勢いでぶつけることも必要です。

そのためにはどう活動するのがベストなのか、引き続き試行錯誤するのみです。

冤罪の「冤」は「冖」の下に「兎(ウサギ)」と書きます。元々は「かがみ込む」という意味で、それが「無実の罪をかぶる」に転じたのだとか。次に囲いの下にかがみ込むウサギになるのは、私自身かもしれません。

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