Free大助!ノーモア冤罪!

「北陵クリニック事件・無実の守大助さんを守る東京の会」事務局長の備忘録〜素人の素朴な目線から冤罪を考える〜

【27】冤罪「松橋事件」どうする検察!? 12月4日に注目!

■今週の嬉しいニュース

2017年11月29日、『松橋(まつばせ)事件』の即時抗告審で、福岡高等裁判所が再審開始を認めました。2016年6月の熊本地方裁判所に続いて、再審をやるべし!と判断したのです。

“マツバセ?”

“ソクジコウコクシン?”

“チホウサイバンショに続いて…?”

聞き慣れない語句を並べてしまいましたが、順を追って説明していきます。この事件は典型的な冤罪であり、守大助さんの北陵クリニック事件に相通ずる部分もたくさんありますので、いつもより長めですが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

 ■そもそも「松橋事件」とは?

1985(昭和60)年1月8日、熊本県松橋町(現在の宇城市)の民家で、住人男性(当時59歳)が殺されているのが見付かりました。首など10ヵ所以上を刺されての失血死でした。

それから約10日後、近所で電気店を営む宮田浩喜(こうき)さんが逮捕されます。宮田さんは亡くなった男性の将棋仲間。2人は事件の数日前、お酒に酔った勢いでケンカをしていました。

 これで宮田さんがアヤしいと睨んだ警察は、“オマエが腹いせに殺したんだろう!” と厳しく追及しました。腰の持病があり、キツい取調べに耐えられなかった宮田さんは、“自分の家から持ち出した小刀で刺した”と、犯行を認めてしまいます。

裁判では自白を撤回して無実を訴えましたが、“一度は自白した” という理由で 懲役13年の刑が確定。1990年から99年(仮出所)まで岡山刑務所に収監されます。

2012年3月、熊本地方裁判所に再審請求。2016年6月 、同裁判所は、“自白と客観的な証拠に矛盾がある”として再審開始を決定。しかし、これを不服とした検察が即時抗告しました(これが大きなモンダイ!後ほど書きます)

検察の即時抗告を受けて本当に再審を認めるべきか、舞台を福岡高等裁判所に移して再度の協議へ。そして今回も裁判所福岡高裁は、再審開始を認めるという判断を下したのでした。

 ■長男はどれほど無念だったことか…

現在宮田さんは84歳。脳梗塞認知症を患い、施設で暮らしています。そんな宮田さんを支え、ともに闘ってきた長男の貴浩(たかひろ)さんは昨年の熊本地方裁判所の再審開始決定を受け、新聞の取材にこうコメントしています。

捜査に当たった警察、検察の関係者も、父と同じ期間を刑務所で過ごしてほしい。そうでなければ冤罪はなくならない(2016年7月1日/毎日新聞

その貴浩さんは今年9月、病気のため61歳で亡くなりました。今回の福岡高等裁判所の決定を聞くことなく、高齢の父親の再審の行方を気にかけたままの他界。どれほど無念だったことでしょう。

■10ヵ所以上刺した凶器から血液反応ナシ!?

貴浩さんが憤った “警察、検察の捜査” とは、どのようなものだったのでしょうか?

宮田さんを犯人とする根拠は、警察に強要された自白以外にありません。宮田さんは “10ヵ所以上刺した” と自白させられますが、こんなに刺せば返り血を浴びたり、何らかの痕跡が残るはず。しかしそういったモノは一切出ていません。

凶器とされる小刀についても、警察の鑑識がいくら調べても血液反応が出ませんでした。エッ…そんなバカな?????普通ならそう思うことでしょう。宮田さんを責め立てて自白させた捜査員も、同じように疑問を持ったハズです。

しかしここで “宮田さんは犯人じゃない可能性がある。もう一度、捜査を仕切り直そう”とならないのが、警察の困ったところ。この事実がわかると、小刀に血が付かないよう、柄の部分に布を巻いて刺した。犯行の後、刃の部分は磨いだ。布切れは自宅の風呂釜で燃やした と、宮田さんの自白が 、より詳細に(?) 変わります。

 一度犯人と決めつけたら、とにかく自白させる。無実の可能性が出てきても、お構いナシ。後から判明した事実に合わせて、都合のいいように犯行のシナリオを改ざんして自白調書をデッチ上げる。このブログでも繰り返し書いてきましたが、そんな警察の捜査方法は、たくさんの冤罪を生み出す温床になっています。

 ■自白で“燃やした”布があった!?

さらに松橋事件では驚くことに、自白では燃やしたことになっていた布切れが、検察に保管されていたのです!! 布は古いシャツを切り取ったもので、切り取られたシャツも一緒に出てきました。布には焦げた跡もなく、血も付いていませんでした。

もし検察がもっと早く裁判に提出していれば、宮田さんの自白は信用に値しないと、無罪判決が出ていたかもしれない、超重大な証拠です!!

この布の存在が、どのように明らかになったのかというと、再審請求を進める宮田さんの弁護団検察庁に通いつめ、大量に開示された証拠物の中から、たまたま発見したのです。

 ここで少し説明を。警察が捜査で集めた証拠は、検察が保管します。そこからどの証拠を裁判に提出するかは、検察次第。再審においてどの証拠を開示するかも同様で、検察の全面的な証拠開示を義務付けた法律も存在しません。

じゃあ、無実の証拠が出てこないことがあるの…?検察の手中にある証拠をチェックする仕組みはいないの…?

そうなんです。これが日本の刑事裁判の現実で、検察の証拠隠しも、多くの冤罪を生み出す温床になっています。

今回も、もし検察が布を開示せず闇に葬り去っていたら…?考えるだけで恐ろしいコトです。

さらに弁護団は、小刀の刃の長さや幅では遺体の刺し傷はできないという新たな鑑定結果も提出。宮田さんの小刀が凶器という前提は完全に崩れ、再審開始決定の後押しとなりました。

 ■検察って何様なんだ?

以上です。どうでしょうか?

ズサンな捜査を行った警察も許せませんが、私はそれ以上の憤りを、検察に感じます。宮田さんの無実を示す布を隠し持っていながら、再審開始決定に平然と抗告を行う…。一体、どんな神経をしているのでしょうか?

今回、福岡高等裁判所が出した再審開始決定が不服な場合、検察は最高裁判所に抗告(特別抗告と言います)する権利も持っています。期限の12月4日までに抗告がない場合は再審開始となりますが、もし抗告されたら三たびの協議へ。

高齢で体調を崩した宮田さんに残されている時間が、決して多くない中で、冤罪を晴らす機会が、また遠のいてしまいます。

まずは12月4日、検察が抗告をするか断念するか、厳しくチェックしてください。

 そもそも裁判所が出した再審開始決定に、検察が言いがかりを付ける権利があるのか?これは日本の刑事司法の重大な欠陥です。次回はこの問題について、書きたいと思います。

 

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福岡高等裁判所の再審開始決定を受け、記者会見を行う宮田さんの弁護団

背後の写真が宮田さん。写真は「日本国民救援会」HPより。