【13】『えん罪を生まない捜査手法を考える』イギリスの取り調べは“インタビュー”
今回は少し前に紹介したシンポジウム「えん罪を生まない捜査手法を考える」から、
もう1人の発表者・アンディ・グリフィス博士(Dr.Andy Griffiths)のお話を紹介します。博士はポーツマス大学研究員や、英国警察大学講師の肩書きを持ち、虚偽自白を生まない取り調べ手法を研究。それ以前は約30年にわたって、警察官として働いていました。
日本の警察では悲しいことに、取り調べと言えば机を叩いて自白を取るためのモノという考えがいまだに支配的です。1980年代初頭まではイギリスも同じで、警察官の多くが、取り調べに暴力は付き物と考えていました。
しかし日本と大きく違ったのが、自浄作用が働いたこと。ウィリアムソンという警察幹部が、“殴打して自白を引き出すなど、警察官たる物のスキルではない”と、自らの過ちを認めたのでした。日本の警察とは大違いです。
これを機に改革が進み、被疑者の勾留を最長96時間にすること、取り調べへの弁護士の立会いや、全行程の録音といったルールが整備。
さらに心理学者や法律家と協働して、取り調べのスキルを向上させるトレーニングプログラム「PEACE」を作成。すべての警察官に受講を義務付けています。
これは…
Plan/Prepare 計画・準備
Engage 導入・説示
Account 説明・明確化
Close 集結
Evaluate 評価
という5つのプロセスで取り調べを行い、スキルを向上させていく仕組みだそうです。
こうした取り組みを重ねた結果、今やイギリスの警察官の間には“取り調べ=正しい情報を得るためにインタビューを行うこと”(被疑者が無実であるという情報も含む)という共通認識が定着しています。
そんな “優しく” して大丈夫?厳しく攻め立てるコトも必要じゃない?という意見も当初ありましたが、「PEACE」導入後も検挙率は約86%と、以前と変わらない水準を維持しているそう。
恐らくイギリスの警察官は、自分たちは真実を追及するスキルを持ったプロであるという誇りを胸に、仕事をしていることでしょう。「PEACE」は国連でも高く評価され、グローバルなモデルにしようという動きもあるそうです。
次回からは、守大助さんに行われた取り調べを通して、あまりにもお寒い日本の状況について書いていきたいと思います。
アンディ・グリフィス博士。背後の写真は若き警察官時代。