【158】乳腺外科医裁判 “科学的厳密性に議論の余地” があっても逆転有罪
◆こんなコトで無罪判決を取り消して良いのか?
昨年の2月、このブログで紹介した「乳腺外科医師冤罪事件」。
すでに報道でご存知と思いますが、本日東京高裁は一審の無罪判決(2019年2月20日/東京地裁)を破棄。「懲役2年」という逆転有罪判決を言い渡しました。
この事件、守大助さんの「北陵クリニック事件」と同じく、人権団体「日本国民救援会」が支援しています。私は傍聴に行かれませんでしたが、実際に行った支援者仲間は「実刑だよ。無実の人が」と絶句したといいます。
この事件、他にもいくつか「北陵クリニック事件」と似通った点があります。
- ①医療機関を舞台にした事件である
- ②元々存在しない事件がデッチ上げられた疑いが大きい
- ③肝心の証拠であるDNA抽出液が破棄されて存在しない
- ④鑑定数値を記入したワークシートが改ざんされた形跡があるなど、医師を犯人にデッチ上げるため証拠がつくられた疑いがある
一審の東京地裁は、とくに③と④に対して「検査者としての誠実性に疑念がある」と断罪し、無罪判決を下しました。
ところが本日の東京高裁は…。
アミラーゼ鑑定とDNA定量検査についても、本判決では科学的厳密性には議論の余地があるとしつつも、女性の証言の信用性を補強できるとした。
(日経メディカルオンライン【速報】より)
「科学的厳密性に議論の余地がある」ならば“疑わしきは被告人の利益に”という刑事裁判の大原則にもとづいて、無罪にしなければなりません。
しかし東京高裁は“証拠は曖昧だけど、被害を訴える女性の証言が信用できる…”という理由で有罪にしてしまいました。こんな程度のことで無罪判決を取り消すなど、トンでもない暴挙です。
(“疑わしきは被告人の利益に”とは?についてはこちらに書きました)
【36】無実の人は無罪に!〜疑わしきは被告人の利益って?〜 - Free大助!ノーモア冤罪!
◆専門家の意見を無視して懲役2年!!
今回の裁判で最大の争点は、被害を訴える女性の「胸を舐めるなどのわいせつ行為をされた」という証言が信用できるか?です。
外科医師と弁護団は、すべては麻酔手術の「せん妄※による幻覚」であると主張しています。
※せん妄=薬物の影響などによる、一時的な意識障害や認知機能の障害で、錯覚や幻覚をともなう。
そもそも外科医師が犯行を行った事実自体が存在しない。女性は幻覚によって被害を受けたように錯覚しているだけ、というわけです。
ある意味、苦しい想いをしてしまった女性も被害者。決して悪意を持って無実の外科医師を陥れたのではないことは、押さえておきたいポイントです。
弁護側は「せん妄」を研究している精神科医や麻酔科医に証人になってもらいました。そしていずれの証人も、女性は典型的な「せん妄による幻覚」である可能性が高いと証言しました。
一方、検察側証人に立った井原裕医師(獨協医科大学埼玉医療センター)は「せん妄であっても幻覚の可能性はない」と、これを否定。この井原医師、自ら「私はせん妄の専門家ではない」と宣言するほどの“素人”だそうです。
つまり裁判所は専門家である弁護側証人でなく、素人である検察側証人の言うことを採用し、有罪にしたのです。こんな裁判が続くかぎり、これからも冤罪が量産され続けるでしょう。
裁判所がこんな体たらくなので、検察もやりたい放題。“素人”の証人を呼んで、無罪判決をくつがえそうなどという蛮行を、平気で行えるのでしょう。
ではなぜ、裁判所は意味不明な判決を下すのか?興味深いツイートを見つけました。
「袴田事件」の弁護士さんの言葉だけあって、とても説得力があります。もはや日本は法治国家などと呼べる状況でなく、公正な裁判など望めません。“裁判官なら何をやっても許されるという”無法地帯が、裁判所の実態のようです。
繰り返しますが、今回の判決は「懲役2年の実刑」です。
外科医師と弁護団は最高裁に上告して闘う意向ですが、もし刑が確定してしまったら、執行猶予ナシで刑務所に送られてしまうのです(もちろん執行猶予が付けば有罪にしてOKというワケじゃありませんが)。
これが日本の司法の現実。このことを私たちは、今一度認識しておくべきでしょう。
最後に本日の判決を報じた「日経メディカルオンライン」から、弁護団のコメントを紹介します。
「我々は怒りを通り越して、どうしていいか分からない。一審であれだけ議論して、今回の科捜研の手法は信頼性に欠けるものだという結論が出たのに、データは全て捨てても証拠として認められるという判決が出るとは思っていなかった。
科捜研の技官に、『データはないがあなたのDNAが出た』と言われたら終わりということか。今後も、次々にえん罪が生まれるだろう」
弁護団と支援者は、外科医師の身長やベッドの位置関係から、そもそも犯行など不可能なことも実証。『乳腺外科医師えん罪事件』(外科医師を守る会)パンフレットより。