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「北陵クリニック事件・無実の守大助さんを守る東京の会」事務局長の備忘録〜素人の素朴な目線から冤罪を考える〜

【152】「飯塚事件」(後編)処刑の責任者が検察トップに出世

◆法務官僚は何を考えて死刑執行を決めたのか?

私が「飯塚事件」を知ったのは、2009年のことでした。

週刊朝日』(もしかすると『サンデー毎日』だったかも)で、“足利事件と同じDNA鑑定で犯人とされ、冤罪の疑いが強いにもかかわらず、死刑が執行されてしまった”という記事を読んで、ものすごい衝撃を受けました。

翌2010年にはアムネスティ・インターナショナル主催の学習会に出かけて、はじめて徳田靖之弁護士の講演を聴きました。

これ以来、前回紹介したものも含めて徳田弁護士のお話を4〜5回聴きましたが、この1回目の印象は強烈でした。

まだ死刑執行から2年しか経っておらず、前年に再審請求を申し立てたばかりという状況の中、言葉を絞り出すように語る様子に胸が潰されそうになりました。

とくに、こんな一言が耳に残りました。

“久間さんの死刑執行を決めた法務官僚は、何を意図していたのか?”

10年前のことなので、徳田弁護士が正確に何と言われたか自信ありませんが、 “ホウムカンリョウ” という言葉だけはアタマを離れませんでした。

◆現役の検事総長も、死刑執行に関わっていた!!

では無実の可能性が高い久間三千年(くまみちとし)さんを殺した法務官僚とは、どんな人たちなのか?

これについてはライターの片岡健さんが綿密な取材を行い『絶望の牢獄から無実を叫ぶ』(鹿砦社 2016年)という本にまとめています。この本には、無実を切実に訴える久間三千年さんの手記も掲載。「飯塚事件」を理解するには必読の1冊です!!

本には「飯塚事件」の捜査に関わった警察官、起訴した検察官、死刑判決を下した裁判官に直接取材を試みたことも書かれています。しかしほとんどが“ノーコメント、取材お断り”という結果でした。このことが逆に、事件が冤罪である事実を浮かび上がらせているように思えて、読んでいて背筋が寒くなります。

さらに情報公開請求により、死刑執行の決裁文書を取り寄せています。そこから決裁に関わった法務官僚の名前が明らかになりました。

本から一部を引用してみます。※漢字→算用数字にするなど、原文に一部手を加えています。

2008年10月24日、(法務省)刑事局総務課名義で「死刑執行について」と題する文書が起案され、この日のうちに決済されています。

文書は久間さんの姓名や生年月日、裁判で認定された犯罪事実以外の部分がほとんど黒塗りされていましたが、表紙にはこの文書を決済した法務省幹部6人(尾崎道明矯正局長、大場亮太郎矯正局総務課長、富山聡矯正局成人矯正課長、坂井文雄保護局長、柿澤正夫保護局総務課長、大矢裕保護局総務課恩赦管理官)の押印が確認できました。

また、この日のうちに、「死刑事件審査結果(執行担当)」という文書に森英介法務大臣佐藤剛男(たつお)法務副大臣の二人がサインし、法務省幹部5人(小津博司事務次官稲田伸夫官房長、中川清明秘書課長、大野恒太郎刑事局長、甲斐行夫刑事局総務課長)が押印しています。

つまり、判明した限りでも森法務大臣と佐藤法務副大臣に加え、計11人の法務省幹部が久間さんに対する死刑執行が相当だという決裁をしたわけです。そして決裁後、この日のうちに以下の死刑執行命令書が作成されています。(28ページより)

私は後半に登場した5人の名前を見て「エッ!?」と思いました。

うち赤字にした3人は、後に「検事総長」つまり…検察組織のトップに出世していたのです。まず稲田伸夫さんは、現役の刑事総長。

昨今の「検察庁法改正案」問題では、安倍政権に対峙する “検察の顔” として目にする機会も増え、ヒーローに祭り上げられている感もあります。「飯塚事件」の真相を問いただす、気概のある記者さんはいないのでしょうか?

他の4人の「その後」は、下記のとおりです。

無実の可能性が高い久間さんの死刑執行を決めた法務省幹部のうち、3人が検事総長に登り詰め、残り2人も高検のトップという出席コースへ。

そして退官後は、名だたる大企業に天下り。そこでは当然、巨額の報酬を得ているに違いありません。

(記事は写真の下に続きます)

法務大臣以下、法務官僚たちの押印がされた決裁文書。『絶望の牢獄から無実を叫ぶ』246ページより。

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稲田伸夫検事総長検察庁HPより。経歴中にある「法務省大臣官房長」の時に、久間さんの死刑執行を決裁した。

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検事総長から、世界最大の自動車メーカの監査役に天下った小津博司さん。トヨタ自動車HPより。

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同じく、検事総長から伊藤忠商事に天下った大野恒太郎さん。伊藤忠HPより。

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◆“無実の処刑”を、墓場まで持って行かせてたまるか!?

『絶望の牢獄から無実を叫ぶ』より、小津博司さん、大野恒太郎さんの2人に取材を試みたヵ所を抜粋して紹介します。

小津氏に手紙で取材を申し入れたところ、次のような返事の手紙が届きました。

〈前略 

6月16日付のお手紙拝受いたしました。小生に対する取材のお申し込みですが、退官後、このような取材は全くお受けしておりません。この度のお申し出もお受けすることはできませんので、悪しからずご了解いただき、今後の連絡もお控えいただきますよう、お願いいたします。要件のみにて失礼いたします。 早々〉

言葉は丁寧ですが、強い拒絶の意思が感じ取れました。(31ページより)

この取材を申し入れた当時、大野さんは現役の検事総長でした。

大野氏に手紙で取材を申し入れたところ、最高検企画調整課の検察事務官から電話がかかってきました。

「今回の取材申し入れに関しては、大変恐縮なんですが、お断りさせて頂きたいということです」

いかなる理由で取材を断るのか尋ねると、「とくに賜っておりません」とのことでした。取材を断られたのは予想通りでしたが、大野氏はもちろん、周辺の検察職員たちも飯塚事件関係の取材にはナーバスになっている雰囲気がうかがえました。(31〜32ページより)

 以上です。どうでしょうか?

彼らはどうやら、取り返しのつかないことをしてしまったという自覚だけは持っているようですが、真相は墓場まで持っていくつもりでしょう。

法務省や検察の考える“正義”や“公益”とは、いったい何なのでしょうか? 無実の可能性が高い人間の処刑を指揮した人間が組織のトップに上り詰め、退官後は大企業に迎え入れられる。

この現実を、1人でも多くの方に知っていただきたいと思います。

こうした「飯塚事件」のダークサイドに光を当てるには、一にも二にも再審を実現させること。しかし裁判所は国家のメンツを守ろうと、なかなか再審開始決定を出さないでしょう。もし再審を認めれば、国家権力が無実の人間を殺したことを認めることになりますから…。

飯塚事件」の再審請求は福岡地裁福岡高裁で退けられ、現在は最高裁で審理されています。考えたくありませんが、三行半でアッサリと棄却される恐れもあります。

しかしこのまま放置しておいて良いのでしょうか?

処刑を指揮した法務官僚たちの目の黒いうちに、何としても真相を明らかにしなければなりません。そのためには私たちが関心を持って、世論を広げることが大きなカギになります。

そして久間さんの雪冤に心血を注ぐ弁護団の皆さん、遺志を受け継いで再審を闘うご遺族には、心から敬意を表します。

ある著名な冤罪事件を手がけている弁護士さんは、こう話していました。

「今、自分が担当している事件が終わったら、飯塚事件弁護団入りを志願したい」

プライベートなお酒の席での発言なので、この弁護士さんの名前は明かせませんが、関心は着実に広がっています。

当ブログは守大助さんの「北陵クリニック事件」の情報発信を目的に立ち上げましたが、引き続き「飯塚事件」についても書いていきます。よろしくお願いいたします。

また、片岡健さんは昨年も取材をしており、5回にわたってまとめています。2回目には稲田検事総長も登場しています。記事のリンクを張っておきます。

www.data-max.co.jp

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