Free大助!ノーモア冤罪!

「北陵クリニック事件・無実の守大助さんを守る東京の会」事務局長の備忘録〜素人の素朴な目線から冤罪を考える〜

【100】乳腺外科医の無罪判決と「北陵クリニック」「飯塚事件」

■科捜研によるDNA資料の破棄を断罪

2月20日東京地裁は「乳腺外科医師事件」の無罪判決を言い渡しました。この事件、「守大助さん東京の会」の母体である人権団体「日本国民救援会東京都本部」が早くから支援をしてきました。私は一度も裁判傍聴や支援集会に行かれなかったのですが、本当に良かった!!と思います。

無罪判決を受けて多くの報道がなされました。江川紹子さんをはじめジャーナリストや法律関係者もいろいろな視点から記事を書いており、改めて事件への注目度の高さを感じました。

事件の概要や裁判の経過はこれらの記事に譲って、私が思ったことを書いてみます。

今回の無罪判決が画期的なのは、警察の科捜研による不正行為をハッキリ指摘し、断罪したこと。

  • 鑑定の数値を記入したワークシートが鉛筆書きで、消しゴムで消して書き直した跡がある。(医師を有罪にするために都合良く書き換えた?)
  • 重要な証拠であるハズの、DNA抽出液を年末の大掃除で破棄した。(再鑑定を不可能にした)

この2つについて、判決文は以下のように指摘しています。 

  • 鉛筆書きワークシート→刑事裁判の基礎資料の作成方法としてふさわしくない
  • DNA抽出液の破棄→非難されるべき行為

とした上で「検査者としての誠実性に疑念がある」と断罪しています。裁判所が科捜研に対して、ここまで厳しい見解を示すのは珍しいと思います。

“これじゃあ当然無罪になるよね” という声も多く聴きますが、そうは行かないのが日本の刑事裁判。いろいろな冤罪事件を見ると “当然” が通用しなかったケースも多いんです。今回のようなマトモは判決は、少数派と思えるほどです。

とくに鑑定資料(今回の場合はDNA抽出液)を破棄したり、全量消費して残さないのは重大なルール違反です。警察の犯罪捜査規範でも資料は残しておくよう規定されています。アタリマエですよね。資料は重要な証拠になるわけですし、冤罪かどうかが争われる場合は弁護側に再鑑定の機会を与えて、科学的な公平性を以て判断するのが鉄則ですから。でもこの “科学的な公平性” が平然と破られるのが、日本の刑事裁判なのです。

■全量消費その1「北陵クリニック事件」の場合

このブログで何度も書いてきましたが、守大助さんの北陵クリニック事件でも鑑定資料が全量消費されています。鑑定では “5人の患者さんの尿、血液、点滴液から筋弛緩剤の成分が検出された” ことになっています。しかし資料によっては何百回・何千回と鑑定できる量だったにもかかわらず、全量消費してしまったというのです。

鑑定を行っていれば当然あるハズのデータや鑑定ノートも、一切提出されていません。これではそもそも、本当に鑑定を行ったのかさえアヤシいと言わざるを得ません。

宮城県警は2001年1月6日、ほとんど裏付け捜査を行わずに大助さんを逮捕しました。マスメディアも裏付け取材を行わず、警察発表を垂れ流して大助さんを “恐怖の点滴魔” に仕立て上げました。

詳しい経緯はこちらで書きました。

【85】守大助さんの父・勝男さんの訴え - Free大助!ノーモア冤罪!

こうなったらもう後戻りできません。警察としては自分たちのメンツを守るために、何としても大助さんを犯人に仕立て上げる必要があったのです。そのために無理矢理鑑定をねつ造した…。これが真相じゃないかと、私は考えています。

少し調べれば鑑定がアヤシいことぐらい、誰だってわかるハズ。にもかかわらず裁判所は事実調べを頑に拒み、大助さんの再審を求める声を門前払いし続けています。

■全量消費その2「飯塚事件」の場合

こちらの事件も、このブログで何度か紹介してきました。1992年に福岡県で2人の女の子が誘拐・殺害されました。そして犯人とされた久間三千年(くまみちとし)さんは2008年、無実を訴えたまま死刑が執行されてしまいました。

久間さんを犯人とした最大の証拠はDNA鑑定でした。それからDNA鑑定の技術は飛躍的な進化をとげ、現在では当時の鑑定方法は精度が低くまったく信用に値しないことが明らかになっています。

ここで必ず比較に出されるのが「足利事件」。1991年に栃木県で発生した幼女誘拐殺人事件で、犯人とされた菅家利和さんは2010年に再審無罪を勝ち取りました。世の中が「冤罪」や「再審」に注目するターニングポイントとなった事件としても、知られていますね。

菅家さんを犯人としたのもDNA鑑定。しかも飯塚事件と全く同じ「MCT118型」と呼ばれる鑑定方法が用いられました。

“東の足利、西の飯塚” と呼ばれるほど共通点のある2つの事件ですが、違いは鑑定資料が残っていたかどうか。「足利事件」は当時の資料が残されていたため最新の技術で再鑑定を行うことができ、菅家さんの無実が証明されました。

一方の「飯塚事件」は、資料が全量消費されていました。さらに鑑定書に添付された写真に久間さんと異なるDNA型(真犯人かもしれない!!)が写っていたにもかかわらず、その部分が切り取られていたことも明らかになっています。科捜研が不正行為を行ったとしか思えません。恐らく久間さんを犯人に仕立て上げたい捜査サイドの意向を受けてのことでしょう。

科捜研は警察の一部門であり、独立した公正中立な機関ではありません。“警察の下請け街工場” と揶揄されることもありますが、まったくその通りだと思います。だから鑑定の不正が横行し、冤罪を生み出す温床になっているのです。

さらに蛇足かもしれませんが補足を。「足利事件」、「飯塚事件」ともに幼い女の子が犠牲になったため、菅谷さんも久間さんも小児愛の性癖がある…などというデマが流布されました。今もインターネットなどではこうした記述を見かけますが、まったくのフェイクです。警察は無実の人間を犯人にデッチ上げるため、マスメディアを使ってこうした印象捜査を行うこともあるのです。

無実を訴えたまま処刑された「飯塚事件」の久間三千年さん。現在は家族が再審請求を行い、最高裁で闘っている。

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■今回の判例を再審への足がかりに

ハナシを最初に戻します。今回の乳腺外科医の無罪判決が、いかに重要なものかおわかりいただけたと思います。

裁判所が科捜研の不正行為を大々的に認めたのは、本当に画期的なこと。今回の判例が、科捜研のデタラメぶりにメスを入れる契機になるかもしれません。そして「北陵クリニック事件」や「飯塚事件」の再審への突破口を切り開く、大きなカギになるかもしれないのです…。いや、必ずそうしなければなりません!!

検察が今回の無罪判決を不服として、控訴してくる可能性も十分に考えられます。控訴してきたら東京高裁でもう一度裁判が行われ、最悪の場合無罪が取り消され「有罪」にされる恐れもあります。そんなことは絶対に許せません。

検察が控訴できる期限は3月6日…どうか厳しい目で、検察の出方を見守ってください。

 

「乳腺外科医師冤罪事件」、東京地裁前で無罪判決を伝える弁護団。(写真:日本国民救援会

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