【147】#検察の不正義に抗議します(2)
(前回より続く)
◆検察の犯罪③再審開始決定への不服申立てとは?
「再審」というのは「有罪」が確定した事件について、もう一度裁判をやり直すこと。ほぼ全てのケースで「無罪」という結果になっています。
戦前までは「無罪」が確定したのを「有罪」にする再審もありましたが、戦後になって廃止されました。
その根底には、再審の目的はあくまでも“無辜(無実の人)の救済”であるという考えがあります。このため再審は、罪犠牲者にとって“最後の砦”とも言われています。
裁判所に再審開始を認めさせるには、それこそ血のにじむような努力が必要です。本人が犯人でないことを示す新しい証拠(DNA鑑定など)を見つけるなど、何年(場合に寄っては何十年)もの時間をかけて、1つひとつ高いハードルをクリアして、ようやく勝ち取れるのが再審開始です。
前回紹介した「布川事件」のように、検察が隠していた証拠の存在が明るみになって、再審開始になったケースもあります。
こうしてようやく勝ち取った再審開始決定。しかし日本では、これに検察が不服を申し立てること=再審の妨害が、法的に認められているのです。
実際にここ15年ぐらいの事例を見ると、検察はほぼ例外なく不服を申仕立てています。まさに権力の濫用です。
◆再審開始決定がされた著名事件〈カッコ内は決定が出た年〉
・名張毒ぶどう酒事件(第7次請求・2005年)×
・布川事件(第2次請求・2005年)○
・足利事件(2009年)○
・福井女子中学生殺人事件(2011年)×
・東住吉事件(2012年)○
・東京電力女性社員殺害事件(2012年)○
・袴田事件(第2次請求・2014年)△
・大阪強姦事件(2015年)○
・松橋事件(2016年)○
・ロシア人おとり捜査事件(2016年)○
・大崎事件(第3次・2017年)×
・湖東記念病院事件(第2次・2017年)○
・日野町事件(第2次・2018年)△
このリストは『季刊刑事弁護』(2019年秋号)に掲載された「再審開始決定対する検察官抗告の不正義」という記事を参考にしました。記事を書いたのは「大崎事件」の鴨志田祐美弁護士。タイトル通り、検察の不正義を告発しています。
記事はこちらから購入できます。
再審開始決定に対する検察官抗告の不正義―特別抗告3事件にみる検察官の「再審妨害」 - 現代人文社
話を戻して、上記リストのうち検察が何も言わなかったのは「足利」と「大阪強姦」の2事件のみ。他11件はすべて検察が不服を申立て、うち3事件で再審開始が取り消されてしまいました。
前回紹介した「名張独ぶどう酒事件」も、この3事件に含まれます。繰り返しになりますが、奥西勝さんは“検察に殺された”と言って過言じゃないでしょう。
このブログでも繰り返し書いてきましが、まだ結論の出ていない「袴田事件」の行末も心配です。検察は袴田さんを“拘置所に最収監せよ=死刑台に連れ戻せ”と、平然と言い放っています。
無罪を勝ち取れた事件についても、検察の不服申立てがなかったら、もっと早く無罪が確定していたケースばかりです。
◆コピペ文書の使い回しで「特別抗告」を乱発
では、検察は一体どんな理屈をこねて不服を申し立てるのか?
先ほどの『季刊刑事弁護』の記事では「松橋事件」「湖東記念病院事件」「大崎事件」のケースを比較しています。この3事件はいずれもほぼ同時期に、最高裁に対して不服申立てが行われました。
最高裁に対する不服申立ては「特別抗告」と呼ばれ、再審開始決定の内容に「憲法違反」か「判例違反」がある場合のみに、認められています。“憲法”とか“判例”と言うと難しく感じますが、要はよほど例外的なケースでないかぎり認めないということです。
それを検察は、同時期に3件も申し立ててきました。
そして検察の提出した3事件の「特別抗告申立書」を比較したところ、大半が一言一句同じ文章の使い回し=コピペでした。内容についても「判例違反」について、あれこれと重箱の隅をつついた内容を並べただけの代物だったといいます。
ようやく切り開かれた再審の道をコピペ文章で妨害する…これは裁判、人権、正義への冒涜に他なりません。
そもそも「判例違反」があるかどうかという以前に、この3事件いずれにおいても検察は、無実の証拠を隠すなどトンデモない不正義を重ねてきました。本来なら真っ先に謝罪をして再審に協力すべきにもかかわらず、特別抗告したのです。
結局、最高裁は3事件すべてについて検察の主張を「特別抗告の理由には当たらない」と、三行半で退けました。そして「松橋事件」と「湖東記念病院事件」は、無事に再審・無罪を勝ち取ることができました。
しかし「大崎事件」については検察の主張を退けながら、最高裁が独自に再審請求を棄却してしまいました。
「松橋事件」の宮田浩喜(こうき)さんは無罪を勝ち取ったとはいえ、認知症を患って寝たきり。再審をともに闘ったご長男は、無罪の報告を聴く前に病気で亡くなりました。
「湖東記念病院」の西山美香さんは20代〜30代のほぼ全てを、冤罪を晴らす闘いに費やされました。
そして「大崎事件」の原口アヤ子さんは、93でほぼ寝たきり。“殺人犯のまま死ねない!”という気力だけで、生命をつないでいるといます。
各事件の概要と検察が行った不正義については、過去のブログをご覧ください。
〈松橋事件〉
【27】冤罪「松橋事件」どうする検察!? 12月4日に注目! - Free大助!ノーモア冤罪!
【28】冤罪「松橋事件」やはり検察は特別抗告(怒) - Free大助!ノーモア冤罪!
【77】「松橋事件」再審開始に思うこと - Free大助!ノーモア冤罪!
【79】「松橋事件」再審開始、各紙の社説 - Free大助!ノーモア冤罪!
【89】再審無罪までもう一歩!!「松橋事件」検察の態度に注目 - Free大助!ノーモア冤罪!
【93】いよいよ再審無罪!「松橋事件」勝利を導いた弁護団のチーム力 - Free大助!ノーモア冤罪!
〈湖東記念病院事件〉
【104】やったぞ!!湖東記念病院事件、再審開始 - Free大助!ノーモア冤罪!
【116】「湖東記念病院事件」検察“有罪立証断念”の狙いとは? - Free大助!ノーモア冤罪!
【118】「湖東記念病院事件」滋賀県警は無実をわかってて逮捕か(怒) - Free大助!ノーモア冤罪!
【137】「湖東記念病院事件」無罪!!but…冤罪を作り上げた連中をこのまま逃がすな!! - Free大助!ノーモア冤罪!
【138】「湖東記念病院」無罪を受けて「冤罪犠牲者の会」が声明を発表 - Free大助!ノーモア冤罪!
〈大崎事件〉
【103】沈黙の最高裁〜「大崎事件」弁護団激励行動に参加して〜 - Free大助!ノーモア冤罪!
【111】「大崎事件」再審取消の裏にある許せないハナシ - Free大助!ノーモア冤罪!
【112】「大崎事件」最高裁決定に対する各団体の声明 - Free大助!ノーモア冤罪!
◆市民の力で刑事訴訟法を変えて、検察の横暴を止めよう
検察による再審開始決定に対する不服申立ては「刑事訴訟法」で認められています。こんなことが認められている日本は、先進国でもかなりレアなケースだといいます。
このような理不尽をなくすには「即時抗告をすることができる。(第450条)」という条文を1つ削除すれば良いだけのことです。
昨年には「再審法改正をめざす市民の会」が立ち上がり、このことを目標のひとつに掲げています。
私たちだっていつ、どこで、冤罪に巻き込まれるかわかりません。検察の問題は、決して他人事ではありません。
マスメディアでは“検察が抗告した”などと、表面的な事実を報じるだけで、その中身がいかに悪辣であるかに踏み込んだ報道は、ほとんど目にしません。検察の実態を知らない人は“検察にも正当な言い分があるんだろう”などと思うかもしれません。とんでもないことです。
やはり私たち市民が声を上げて、検察に積極的に“介入”して、これ以上の横暴を食い止める方法を考えましょう。
フリー素材で見つけた検察官のイラスト。(作者:acworksさん)
検察官のバッチの形は,紅色の旭日に菊の白い花弁と金色の葉があしらってあり,昭和25年に定められました。その形が霜と日差しの組合せに似ていることから,厳正な検事の職務とその理想像とが相まって「秋霜烈日(しゅうそうれつじつ)のバッチ」と呼ばれているようです。 「秋霜烈日」とは,秋におりる霜と夏の厳しい日差しのことで刑罰や志操の厳しさにたとえられています。(法務省HPより)
“厳正な職務と理想像”って…ブラックジョークにしか思えません。