Free大助!ノーモア冤罪!

「北陵クリニック事件・無実の守大助さんを守る東京の会」事務局長の備忘録〜素人の素朴な目線から冤罪を考える〜

【132】「今市事件」②有罪ありきの八百長裁判

もう、再審にかけるしかない

前回に続いて「今市事件」について。今回は勝又拓哉さんを「有罪・無期懲役」にした裁判の流れを振り返ります。

(これまでの裁判の流れ)

 最高裁で刑が確定したことにより、東京拘置所の拓哉さんは近いうちにどこかの刑務所に移されます。そして、いつ出られるとも知れない服役を余儀なくされることになります。

拓哉さんを取り戻すには「再審=裁判のやり直し」を実現させて、改めて無罪を勝ち取るしかありません。すでに拓哉さんと弁護団は、再審請求する意向を明らかにしています。

再審請求がいつ頃になるかはわかりませんが、引き続き注目してください。“こんな冤罪は許せない!!” という世論も、再審への道につながりますので。

では改めて、第1審から問題点を整理してみましょう。これから書くことは、新聞や雑誌の記事、裁判所の判決文、支援者仲間から聴いた話などを元に、私なりにまとめたものです。

 

第1審:宇都宮地方裁判所〜自白映像に臨場感があったから有罪

裁判員裁判として “市民感覚” を取り入れて判断

第1審は裁判員裁判として行われました。“司法に市民感覚” を合言葉に、一般から募った裁判員が裁判官とともに有罪・無罪を判断する制度です。しかし「今市事件」のケースでは “市民感覚” が最悪の結果をもたらしてしまったように思います。

まず、検察は以下のような罪を犯したとして、拓哉さんを起訴しました。

  •  2005年12月1日、被害者の女児を車で誘拐し、アパートでわいせつ行為を行った。
  • そして12月2日の午前4時頃、茨城県常陸大宮市三美字泉沢2727番65 の山林の西側林道(=遺体の発見現場)で、被害者の胸をナイフで刺し失血死させた

しかし前回のブログで指摘したとおり、わいせつ行為をしたはずなのに拓哉さんのDNAが出ていない、殺害現場とされた山林で検出されるはずの血痕がほとんど出ないなど、オカしなことだらけです。

むしろ拓哉さんは無実であり、犯行のシナリオはデッチ上げなことが明白。よく検察は、こんなデタラメな起訴をしたものです。

さらに検察は、状況証拠が複数あると主張しました。たとえば、

  • 警察の監視カメラ(Nシステム)に、殺害現場へ往復したと思われる拓哉さんの車が映っている。

これについては説明すると長くなるので、次回掘り下げます。

結論だけを言うと、裁判所はこれらの状況証拠をそれほど重視しませんでした。複数の状況証拠をつなぎ合わせても、拓哉さんを犯人とするのは不十分と結論づけたのです。

それでも判決は「有罪・無期懲役」。

◆映像がなかったら、有罪を出せなかった

有罪の根拠となったのは、法廷で上映された取調べの映像でした。そこには涙を流して反省の弁を述べる拓哉さんの姿が映し出されていました。

裁判終了後の記者会見で、裁判員たちは口々にこんなコメントを出しました。

  • 「臨場感があって、映像がなければ判断が変わっていた」
  • 「この映像がなければ、有罪判決は出せなかった」

つまり…映像がなければ無罪になっていたのです。

客観的な証拠ナシで自白だけの場合は「無罪」にするのが、刑事裁判の鉄則です。まあ現実には、この鉄則が破られることで沢山の冤罪が生み出されているのですが…。とにかく刑事裁判のルールを破った、トンデモ判決だったのです。

前回も書きましたが、拓哉さんへの取調べはトータル230時間以上に及びました。 “やってない” と否認するとビンタして壁にぶつけたり、“殺してごめんなさいと50回言え” といった拷問も行われました。

そのうち録音・録画されたのが80時間以上、法廷で再生されたのは “たったの” 7時間13分(全体の3%弱)でした。拷問のような取調べが行われた段階は、録音・録画されていなかったのです。

取調べというのは、無実の人を犯人に変身させていく、一種の “マインドコントロール” だといいます。 これについては、以前書きました。

【15】阿部泰雄弁護士のお話① “マインドコントロール”されていた大助さん - Free大助!ノーモア冤罪!

裁判員はまさに “マインドコントロール” された後の拓哉さんの映像だけを観て “犯人にちがいない=有罪だ” としてしまった…。本当に恐ろしいことです。

これがいかにトンでもないことかは、映画監督の周防正行さんがコメントしています。

密室での取調べは、捜査機関が被疑者の身体を拘束し、自由を奪った中で行う一方的な追求である。その異常な空間でのやり取りの録音・録画を見て、被疑者が真実を話しているかどうかを判断することは、汚染された映像を見て判断するに等しい。ましてやそれが一部録音・録画であれば、捜査機関の取調べに違法性があったかどうかを検証する材料にすらならない。(えん罪今市事件・勝又拓也さんを守る会 パンフレットより)

さすが映像のプロらしい、的を得たコメントだと思います。周防監督は痴漢冤罪をテーマにした『それでもボクはやってない』を撮って以来、冤罪をなくす活動に精力的に参加し、「今市事件」にも深い関心を寄せています。

拓哉さんを有罪にした裁判員の皆さんは、今でも自分たちの判断が正しいと思っているでしょうか? 

そして一緒になって無期懲役の判決を下した裁判官は、プロとして恥ずかしくないのでしょうか?

第2審:東京高等裁判所〜手紙で告白してるから有罪

◆1審判決を全否定、それでも…

拓哉さんにとって、1審の判決は到底納得できるものでありません。無罪の獲得に向けて、闘いは第2ラウンドの東京高裁に移りました(宇都宮には高等裁判所がないので、東京で争われます)

東京高裁の藤井敏明裁判長は1審の判決を、全否定しました。

●映像で有罪にしたことについて

「被告人(拓哉さん)の内心が映像と音声により映し出されるわけでもないのに、取調べ中の被告人の様子を見て、自白の信用性を判断することには強い疑問がある」

●山林で殺害したとされたことについて

「自白供述に基づき、被害者が殺害された日時、場所を公訴事実どおりに認定した原判決(1審の判決)には事実の誤認があり…」

(判決文より)

取調べの自白映像なんかアテにしてはダメだし、山林での犯行を裏付ける客観的な証拠もないと、バッサリ切り捨てたわけです。

ここまで来れば普通は「無罪」になるのですが、判決は…またしても「有罪・無期懲役」。

◆反則技の「訴因変更」で無理矢理有罪

まず裁判長は「訴因変更しますか?」と検察に働きかけ、これを検察は受け入れます。訴因変更とは起訴した内容を変えることで、結果的にこうなりました。

  • Before(訴因変更前)

2005年12月2日の午前4時頃、茨城県常陸大宮市三美字泉沢2727番65 の山林の西側林道(=遺体の発見現場)で、被害者の胸をナイフで刺し失血死させた

  • After(訴因変更後)

2005年12月1日の午後2時38分頃(=被害者が行方不明になった時刻)から同月2日午前4時頃までの間に、栃木県内、茨城県内又はそれらの周辺において〜以下同じ。

殺害現場が山林であることを立証できなくなったので、時間と場所を大幅にボカした上で有罪にしてしまったのです。

こんな理屈が許されたら、犯行現場がハッキリしない場合は “日本のどこかで” や “地球上のどこかで” と書いて有罪にしてOKということになってしまいます。もはや「裁判」などと呼べる代物ではありません。

また、拓哉さんがお母さんに書いた手紙も有罪の根拠とされました。

前回書いた通り、最初、拓哉さん母子は偽ブランド品を販売した疑いで逮捕されました。そのときに拓哉さんは、別の拘置所に捕われていたお母さんに手紙を出しました。

その手紙の写真です(記事は写真の下に続きます)

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東京高裁は手紙の中の

今回、自分で引き起こした事件、お母さんや、みんなにめいわくをかけてしまい、本当にごめんなさい。

 といったヵ所が殺人を告白したものとして、有罪にしたのです。

実はこの手紙、看守に書き直しを命じられた後のものです。最初は “やっていないのに自白調書に署名してしまった” ことを悔やみ、無実を叫ぶ内容だったといいます。

しかし看守にダメ出しされて直した結果、この文面になったというのです。警察の都合がいいように書き直された文章が、有罪の根拠にされてしまった。

しかしそれ以前に、そもそもこんなあいまいな文面が殺人の明白な証拠になるなどということが、ナンセンスです。

東京高裁は最初から「有罪」という結論ありきだったとしか思えません。

私は法廷を傍聴できませんでしたが、判決が言い渡されている間、拓哉さんは一度も視線をそらすことなく、ジッと裁判長を見つめていたといいます。

上告審:最高裁〜A4のペラ1枚で棄却

最高裁の仕事はごく簡単に言ってしまうと、 地裁と高裁で行われた裁判を厳しくチェックすることです。

チェックした上で高裁に「差し戻し」(もう一度、裁判をやり直せと命じる)をしたり、最高裁自身で「無罪」を出すこともあります。「今市事件」の場合、これだけ支離滅裂な裁判が行われたわけですから、最高裁はしっかり審理をして然るべきです。

拓哉さんの弁護団も120ページにわたる上告趣意書を提出し、これまでの裁判の問題点を丁寧に伝えました。しかしそれに対する最高裁の回答は「A4用紙1枚」の棄却決定書…。

昨年11月13日の守大助さんのケースと、まったく同じです。

大助さんの棄却決定書は、こちらの過去の記事で紹介しています。恐らく拓哉さんの決定書も文面はこれのコピペで、事件番号、日付、裁判官の名前を差し替えただけでしょう。

daisuke0428.hatenablog.com

私は守大助さんの支援者として、昨年11月まで幾度となく最高裁に足を運んで「北陵クリニック事件」の再審開始を要請してきました。その要請行動では「今市事件」の支援者ともよく顔を合わせました。

拓哉さんのお母さんも毎回のように上京し、このように訴えていました。

何の証拠もないのに無期懲役…。日本は先進国なのに、無実の人を有罪にするのですか? 間もなくオリンピックも開かれるというのに、国際社会に恥ずかしくないのですか? 早く息子に普通の生活をさせて欲しい。 

 拓哉さんのお母さんは台湾出身です。そのあたりのお話は、次回改めて掘り下げます。 

“日本は先進国なのに” という訴えに、私は返す言葉がありません。しかしこれはまぎれもなく2020年の現在、日本の裁判で起きている現実です。

この現実から目を背けず、変えていこうと努力するのは、私日本人の責任じゃないかと思います。

次回はそもそもなぜ、拓哉さんが「今市事件」の犯人として警察から目をつけられたのかを書いてみたいと思います。

 3月6日、最高裁の上告棄却を受けて記者会見する、勝又拓哉さんの弁護団。(写真は毎日新聞・Yahooニュースより)

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