Free大助!ノーモア冤罪!

「北陵クリニック事件・無実の守大助さんを守る東京の会」事務局長の備忘録〜素人の素朴な目線から冤罪を考える〜

【116】「湖東記念病院事件」検察“有罪立証断念”の狙いとは?

ご無沙汰しています。2ヵ月も更新をサボっていた間に、冤罪を巡るいろいろな出来事がありました。書きたいことも沢山あります。また更新していきますので、よろしくお願いいたします!

そして更新をサボっていたにも関わらず、今月のPVが1000を突破しました。本当に読んでいただき、ありがとうございます!

◆ようやく無罪!西山美香さん、お疲れ様でした!

ニュースでご存知と思いますが、このブログでも何度か紹介してきた西山美香さんの「湖東記念病院事件」の無罪が、ようやく確定する見通しです。

事件の概要や、これまでの経過については、以前の記事をご参照ください。

【104】やったぞ!!湖東記念病院事件、再審開始 - Free大助!ノーモア冤罪!

この事件、2017年12月に大阪高裁が再審開始を決定しました。しかし例によって検察が特別抗告(怒)し、審理は最高裁へ。“もしここで再審が取り消されてしまったら…”という予断を許さない状況が1年以上続きました。
しかし今年の3月19日、最高裁は検察の言いがかりを退けて一安心。間もなく大津地裁で再審公判が開かれ、無罪がほぼ確実という見通しになりました。

この間の最高裁要請で、私は何度か西山さんと顔を合わせました。西山さんはアルバイトのスケジュールをやり繰りしながら、滋賀県から東京の最高裁に足を運び、以下のような想いを切々と訴えていました。

2017年12月20日に大阪高裁で再審開始決定が出たことは、とても嬉しく、感謝の気持ちでいっぱいです。しかし5日後に検察が特別抗告をしたため、最高裁での闘いを強いられています。そのために、とても不安な毎日を過ごしています。どうか宜しくお願いいたします。

 そして自分の要請が終わった後は “他の冤罪事件のことも考えて欲しい。お願いします”  と、必ず一言添えていました。自分のことだけでも大変なハズなのに、他の冤罪仲間のことも気にかけている…。横で聴いていて涙が出そうになりました。本当に頭が下がる想いです。

事件発生(2003年)当時23歳だった西山さんは、無実を訴えたまま12年の刑務所暮らしを余儀なくされ、現在は39歳に。長い闘い、本当にお疲れさまでした!

◆検察はまず、謝罪するのが筋ではないか!

 検察は当初、再審公判においても “あくまでも西山さんは有罪だ!” と、争う方針でした。ところがここに来て突然方針を転換。“有罪立証しない” としてきました。これにより、ここ2〜3日の間に報道されている “無罪確実” につながったわけです。

報道によると、大津地方検察庁高橋和人・次席検事はこう述べています。

有罪のための新たな立証はせず、確定審などで取り調べられた証拠などに基づき、裁判所に適切な判断を求めることとした。

事実上の検察の白旗…。検察がギブアップしたことで、西山さんの無罪が迅速に確定するのは、本当に嬉しいことです。改めて、西山さんには “お疲れ様でした” と伝えたい。

しかし…これでハッピーエンド!としていいのか? 答えはNo!です。

まず検察は、真っ先に西山さんに頭を下げて謝罪すべきです!

一体どのツラを引っさげて “裁判所に適切な判断を求めることとした” などと、他人事のようなコメントを発するのか? このブログでも幾度となく指摘してきましたが、日本の刑事司法を劣化させている元凶の一因は、間違いなく検察にあります。こんな連中に “正義” を担わせておいて良いのか? 私たち1人ひとりが問われています。

◆検察が“有罪立証”を断念した本当の理由

どうして検察は “有罪立証しない” 方針に転換したのか? 西山さんとともに闘ってきた井戸謙一・弁護団長が、興味深い指摘をしています。

「検察側は(証人尋問などで)捜査の問題が明らかになるのを避けたかったようだ」産經新聞より)

おそらくこれが真の理由でしょう。検察は決して、冤罪をつくってしまったことを反省して有罪立証を断念したわけではありません。

ここでいう “捜査の問題” とは、警察(滋賀県警) による違法捜査のこと。西山さんを犯人と決めつけて強引な捜査を行った捜査課・山本誠・刑事らの、汚いやり口が法廷で明らかにされるのを避けたかったのでしょう。

山本刑事は、取調室で亡くなった患者さんの写真を見せて “この写真を見て、何も思わないのか!” “なめてたらあかんぞ!” などと怒鳴り散らし、西山さんが座っていた椅子を蹴飛ばしたといいます。

西山さんは恐怖から逃れたい一心で “人工呼吸器のチューブを外した” という、警察がデッチ上げた犯行のシナリオに沿った供述を行います。すると突然、山本刑事は “自分を信じろ、悪いようにはしない” と優しくなり、ケーキの差し入れまでしてくれたといいます。こうして警察の意に沿った、自白調書が作り上げられていきました。

 西山さんは、軽い「発達障がい」と「知的障がい」を持っています。いわゆる供述弱者です。これは本人も公表していることです。山本刑事はそれを承知の上で、ある時は “怖い人” を、ある時は “優しい男” を演じ分けながら、自白を迫っていったのです。

山本刑事の蛮行および現在については、ライターの片岡健さんが追跡取材をしています。こちらのリンクをご一読ください。

再審開始の湖東記念病院事件 県警の捜査資料から新たな疑惑(後):データ・マックス NETIB-NEWS

 リンクの記事の通り山本刑事は出世し、滋賀県警・長浜署の刑事課長に。こんな刑事課長の号令の下で捜査が行われれば、さらに冤罪が量産されるのは明白です。「湖東記念病院事件」が無罪になったからと言って、良かったね!では済まされないんです。

◆警察をかばい、冤罪デッチ上げ捜査の隠蔽に奔走する検察

検察は本来、警察を指導し、山本刑事が行ったような蛮行を正す立場にあるはず。しかし実態は真逆のようです。

この10月に発行されたばかりの『冤罪白書2019』燦燈出版で、元・検察官の市川寛・弁護士が興味深いことを語っています。一部を抜粋して紹介します。

刑事訴訟法上、検察官は警察に対し、指揮権がどうのこうのと条文には書いてあるのですが、実務的には全くそうではなく、どうかすると警察の方が立場が強いのです。

とくに小規模な地方の、検事が少ない検察庁に行くと、昨日だか一昨日司法試験に受かったような若造の検事が、20年、30年やっているベテランの刑事に指示をするということは、よほどその検事の芯が強かったり、本当に的確な指示をしていないと警察に反発されたり、なめられる実情があります。

そういう意味で、日頃から警察からの暗黙というか、間接的な意味の突き上げみたいなものを感じているので、検事はややもすると警察を守ろうとする。

実態としては警察のやっていることをむしろ追認する、あるいは警察のやっているまずいことをうまくごまかす工夫をするのが検察官になっているような、法が定める双方の立場が逆転しかねないような運用になっていると言わざるを得ないのです。(8〜9ページより)

どうでしょうか? 私は市川さんご本人から、こんなエピソードも聴いたことがあります。

大阪地検にいたとき、不起訴にした案件に対して、大阪府警の刑事が “勉強させてもらいましょうか!” と、ヤクザ顔負けの剣幕で怒鳴り込んできたことがあった。

大阪府警の暴力的な取り調べは、度々問題になっています。このときも、さぞやスゴい迫力だったでしょう。

さまざまな冤罪事件を見る度に、こんないい加減なデッチ上げ捜査が明白な事件を、なぜ検察は起訴したんだろう?と感じるケースが多々ありました。その背景には、検察と警察のこんな関係があったのです。

 市川さんの経歴や人なりについては、書き始めると長くなるので、こちらの著書をお読みください。

さて、まとめに入りますが、冤罪が起きる構図は明白です。

警察によるデッチ上げ捜査→それを検察が追認→裁判所もスルー。

守大助さんの「北陵クリニック事件」をはじめ、多くの冤罪事件がこうして生み出されています。こんなバカなことを止めさせるには、やはり主権者である私たち国民が声を上げるしかありません。本当に何とかしましょう。

 

中日新聞」(10月23日)より。ホッと笑顔の西山美香さんと、井戸謙一・弁護団長。 

f:id:daisuke0428:20191025173734j:plain