Free大助!ノーモア冤罪!

「北陵クリニック事件・無実の守大助さんを守る東京の会」事務局長の備忘録〜素人の素朴な目線から冤罪を考える〜

【82】冤罪撲滅に闘う国会議員、藤野保史さん〈後編〉

藤野保史議員を講師に招いての学習会

『今こそ学ぼう!!再審の最前線』の後編をお届けします。

※文章は録音を基に編集の上、作成しています。文責は「守大助さん東京の会」事務局長にあります。

〈前編から続く〉

■再審をめぐる海外の状況

 ここで海外における再審をめぐる状況を紹介したいと思います。これにあたっては九州再審弁護団連絡会の本『緊急提言!刑事再審法改正と国会の責任』(下記リンク)を読ませていただき、大変参考になりました。それぞれの国もいろいろな問題があったわけですが、重大な冤罪事件の発生をきっかけに制度を見直しているところが、日本と大きく違います。

  アメリカでは州ごとに制度が作られていて、たとえばノースカロライナ州では1984年に起きた2件のレイプ冤罪事件が制度の改正に結びつきました。2002年11月に州の最高裁長官だったビバリー・レイクさんが諮問委員会を立ち上げて、この2件をはじめ何故冤罪が起きたのか、原因究明と再発防止策に取り組みました。委員会には裁判官、弁護士、検察官、警察官、大学教授、被害者団体、支援団体、NPOなど幅広い人々が参加して、2年にわたって公開で議論が行われました。これに基づいて法改正が行われ、重大事件における検察の手持ち証拠の全面開示が定められたということです。

 2006年には州に「冤罪審査委員会」が設立、07年には目撃証言の取扱いの見直し、取り調べの録音録画、DNAの保存、被告人側からのアクセスの保証といったものが、法制度として作られました。

 フランスもかつては日本と似た状況でしたが、死刑執行後に冤罪が明らかになった事件が続いたことなどを契機に、制度を見直そうという機運が高まりました。大きな転機になったのは、2014年に超党派の国会議員による調査団が結成されたことです。その報告書によると、1989年から2013年の間に3358件の再審請求が行われ、そのうち再審が認められたのは84件、無罪を勝ち取れたのは51件でした。わずか1.5%とあまりにも狭い再審の門戸が明らかにあり、制度の改革へとつながりました。

 

九州の再審事件を例に、ポイントがよく整理された1冊です。再審制度のルーツはフランスだった!など、海外の事情もよくわかります。

 

■日本が見習いたいカナダの事例

 カナダの事例は、非常に示唆に富んでいると感じています。1971年に『マーシャル事件』が起きます。マーシャルという青年が11年投獄された後、真犯人が現れたという事件です。これを受けて州政府が王立委員会を設け、2年の調査の末1500ページにわたる報告書を作り、検察官に対する事前の証拠開示を実現する契機になりました。

 1つの冤罪事件をきっかけにここまでやっているカナダの取り組みに、とても感銘を受けました。他方日本では1910年代から2000年代の間に161件もの冤罪が明らかになり、死刑再審が4件も出ているにもかかわらず、検証が全く行われていません。

 カナダでは当初、マーシャル委員会への反発が強かったそうです。マスコミが魔女狩りだと批判したり、裁判所や検察が調査に協力しないこともあったのですが、それらの困難を乗り越えて報告書を完成させました。当初、証拠開示に対して検察は “そんなバカなことができるか” と笑い飛ばしたそうです。しかし報告書が1989年に出され、93年に最高裁が検察に証拠の全面開示を求め、現在ではカナダの刑事司法に欠かすことのできない手続きになっているということです。1991年には最高裁“検察の手中にある証拠は有罪にするための検察の財産ではなく、正義がなされるために用いられる公共の財団だ” という判決を下しました。全くその通りです。

  この4月7日に日弁連の『法制化に向けて〜再審における証拠開示シンポジウム』が開催されました。私は国会で行けなかったのですが、議事録を読ませていただきますとカナダと同じようなやり取りがありました。袴田事件弁護団の戸舘圭之弁護士の発言を紹介します。

“再審請求が地裁から高裁に上がって、三者協議というかたちで定期的に裁判官や検察官と顔をつき合わせるわけです。そのときに本当に感じるのは、同じ人間でありながら、同じ日本語の話者でありながら、どうしてここまで言葉が通じないのだろうという徒労感です。とりわけ証拠開示の問題などを話すと検察官とはまともな議論にもなりませんし、全く話がかみ合わない。例えば、私などは、「馬鹿の一つ覚え」のように再審のそもそも論とか、無辜の不処罰とか、わりと平気で言ったりするタイプですが、そんなことを言っても暖簾に腕押しといいますか、鼻で笑うような、「おまえ何言ってんだよ、馬鹿」みたいな顔を検察官は平気でしてきます。”

 現時点では日本の検察官はこういう考えかもしれません。しかしどんな困難も粘り強く切り開く。実際に制度を作ってしまえば、笑っていた相手も変わると思います。決してあきらめずに頑張ったというのが、カナダの事例最大の教訓だと感じています。

 

上記シンポジウムのパネルディスカッションの全文は、こちらに収録!証拠開示にトピックを絞り、各再審事件の事例を紹介。平易な文章で読みやすく、初めての方にもおすすめです。

 

政治家と市民が力を合わせて

 今本当に大切なのは、なぜ冤罪が起きたのかを検証していくことだと思います。この点を国会で追求しますと、上川法務大臣は “4者協議をやっています。最高裁法務省、警察、日弁連の4者で検討しています” と言うのです。日弁連以外は冤罪を起こしてきた当事者ですね。そうした方がいくら協議をやっていますと言っても、力及ばずと言わざるを得ません。海外のように、いろいろな立場の方を入れて検証をすべきです。しかも議事録はなく、会議の内容は非公表です。

 日弁連のワーキンググループも2011年1月に意見書を出して、検証のための第三者機関を国会に設けるべきだと提言しています。その直後に東日本大震災が発生し、原発事故調査委員会が国会に設置されました。衆議院参議院の全議員が賛成して設置されたはじめての委員会で、活動期間は短かったのですが、外部から専門家が入って7つの提言を出してくださいました。その提言がなかなか実行されないことは問題ですが、調査委員会が大きな役割を果たしたことは確かです。こうした事例を手本に、再審問題においても法改正につながるような仕組みを作ることができると思います。

 すでに衆議院の法務委員会に再審問題の小委員会が作られましたし、弁護士の中には与野党の議員に働きかけてくださる方もいらっしゃいます。そのおかげで再審問題は重要だという認識が広まりつつあります。具体的な動きはこれからですが、各党とも問題意識は持っているので、さらに前に進める動きを作っていきたいと思います。

 冤罪をなくし、再審制度の改革に向けて、国会でも力を尽くしたいと思います。同時に世論を換気することと、皆さんの運動が決定的な役割を担っていると思います。私も皆さんと引き続き力を合わせて、何としても状況を良い方向に変えていくという決意を申し上げまして、お話を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

 〈了〉

 

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