Free大助!ノーモア冤罪!

「北陵クリニック事件・無実の守大助さんを守る東京の会」事務局長の備忘録〜素人の素朴な目線から冤罪を考える〜

【73】「東京の会」総会・阿部泰雄弁護士のお話①

8月18日(土)の「東京の会」総会には昨年に続き、

阿部泰雄・弁護団長を招いて、事件の問題点を改めて共有しました。

阿部弁護士は2001年1月9日、

守大助さんが逮捕された3日後にはじめて接見して以来、

17年にわたって無罪を勝ち取るために闘っています。

総会でのお話を、何回かにわけて紹介します。

※はじめての方は分かりにくいヵ所があるかもしれません。追って補足説明したいと思います。

 

■証拠の資料は?全量消費しました…でも有罪

弁護士の阿部泰雄です。

去年の7月に東京しゃべらせていただいて、約1年ぶりかと思います。

その間、今年の2月28日に仙台高等裁判所で、

再審請求の即時抗告棄却という決定が出ました。

棄却直後の記者会見で私は、

“今回の決定は、科学に対する無謀な挑戦だ!” と批判しました。

守君の有罪の根拠になっているのは、

大阪府警の土橋均(つちはしひとし)吏員による鑑定です。

まず筋弛緩剤「マスキュラックス」の標品(製品)を質量分析装置で調べたら、

m/z258という電気信号が出た。

次に5人の患者さんの鑑定資料(尿、血液、点滴溶液)を調べたら、

同じくm/z258が出たと。

従って筋弛緩剤が使われたと、こういう論理なんです。

しかも鑑定資料は全て使い切ったと、再鑑定させないわけです。

 

これは皆さん、ドーピング問題を考えてもね、

あるいは競走馬の薬物疑惑でも、

不利益処分を受ける側は再鑑定を受ける権利が保証されているんです。

ところが死刑や無期懲役もあり得る重大な事件で、

被告側に再鑑定をさせないというのは、どういうことなのか?

裁判所はこんなヒドいことをやっているんです。

ある若い裁判官にきいたら “そんなのは証拠能力がない” と、

感想を述べていました。

しかし仙台地方裁判所の判断(2004年の一審)は、

全量消費は合理性がないわけではないという判断で、有罪・無期懲役です。

判決の夜、NHKの「あすを 読む」でも若林誠一解説委員が、

「資料が残っていない場合は、証拠として認めないことが必要ではないか」と、

ハッキリ言っていました。

 

■筋弛緩剤と真逆の症状…でも有罪

日本医大麻酔科の小川龍先生は、被害者とされる11歳の女児の症状を見て、

“筋弛緩剤なんて及びもつかない。症状がまるで逆だ!” と。

仙台地裁で証言してくださいました。

麻酔学会の頂点にいる先生が、ハッキリと否定したんです。

筋弛緩剤というのは神経と筋肉の連絡を断って、筋肉を緩めて弛緩させる。

だから本来は最初に呼吸筋がやられて、

酸素が脳に行かなくなって、最後に脳がやられる。

(※そのため手術等で筋弛緩剤を使うときには人工呼吸が行われる)

ところが小川先生は、女児の症状を見て “これは逆だよ” と。

はじめに何らかの原因で脳に障害が起きたんだと。

そこで呼吸中枢がやられて、その後に呼吸とか循環機能が低下した。

心拍数が落ちて呼吸数も落ちているんです。

 

動物実験では筋弛緩剤を投与すると、必ず浅く早い呼吸になる。

何故なら呼吸筋がやられても一気に止まるわけではないので、

大きな呼吸ができない代わりに早くなる。心拍数も上がるんです。

ところが女児の症状は呼吸数も心拍数も下がっている。

つまり呼吸中枢と循環中枢が先にやられた。

脳が先で、胸(呼吸)が後だと。

筋弛緩剤は胸が先で脳が最後。これはハッキリしているんです。

しかし仙台地裁は、この疑問に何も答えていない。

400ページもある判決文の中で、まったく触れていないんです。

 

私は小川先生以外にも何人ものお医者さんに会っていますが、

皆さん、筋弛緩剤じゃないとおしなべて言っている。

 麻酔医師だって神経内科だって。

 そもそも女児には、筋の弛緩がないんです。

女児は2000年10月31日「北陵クリニック」に入院した日に急変します。

そして仙台市立病院に搬送されて心肺停止まで行ってしまいますが、

救急隊員が蘇生させて、命だけは取り留めます。

問題はですね…なぜ女児が脳梗塞のような症状をきたしたのか?

市立病院の小児科の先生もわからなかった。

 

そしてこれは大事なポイントなので申し上げますが、

11月30日に「北陵クリニック」の女医(半田郁子・副院長)の

旦那さん(半田康延・東北大学教授=クリニックのオーナー)が、

同僚の法医学教授に相談をします。

それを聞いた法医学の先生は当時大阪で愛犬家殺人事件という、

サクシン」という筋弛緩剤を使った事件がピンと来て、

“「北陵クリニック」を調べてくれ” と、宮城県警に情報提供をした。

そういうことで県警の捜査陣はすっかり舞い上がってしまい、

本来は医学的な裏付け捜査をしなければならないのに、

それもやらないでアタマから筋弛緩剤を使った犯行と断定して、

何も証拠がないのに守君を逮捕してしまった。

当時の捜査主任の高橋という警部も、

“本件の捜査の端緒は何か” という私の質問に、

“犬殺し(筋弛緩剤)が使われた可能性がある”という、

法医学教授からの情報提供だったと答えています。

〈次回に続く〉

 

裁判の不条理をアツく語る、阿部泰雄弁護士。

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