Free大助!ノーモア冤罪!

「北陵クリニック事件・無実の守大助さんを守る東京の会」事務局長の備忘録〜素人の素朴な目線から冤罪を考える〜

【163】冤罪を生まないために医療現場ができること(おこがましいタイトルですが…)

◆「あずみの里」無罪確定&「乳腺外科医師」の闘いは最高裁

先日このブログでも紹介した「あずみの里業務上過失致死事件」の逆転無罪判決。

【160】良かった!!「あずみの里」逆転無罪 - Free大助!ノーモア冤罪!

昨日(8月11日)、検察は最高裁への上告を断念しました。これにより、晴れて無罪が確定することになります。本当に良かった!!と思います。

にしても、こうしたニュースを耳にするたびに “検察が断念” という表現がひっかかります。“断念” には “不本意ながら” というニュアンスが含まれます。辞書で 調べても、このように書かれています。

自分の希望などを、きっぱりとあきらめること。(例)「進学を断念する」(goo辞書より)

本来であれば検察は進んで謝罪をし、二度と同じ過ちを繰り返さないよう反省すべき。しかしやはり “断念” というのが本音でしょう。  検察の在り方を正すのは、まだまだ時間がかかりそうです。

一方の「乳腺外科医師冤罪事件」は、東京高裁の逆転有罪(7月13日)から間もなく1ヵ月。闘いは最高裁に移りました。

【158】乳腺外科医裁判 “科学的厳密性に議論の余地” があっても逆転有罪 - Free大助!ノーモア冤罪!

仮に最高裁で無実を訴える声が門前払いにされてしまったら、2年間の刑務所生活を強いられることになります。医師免許も取り消されてしまい、規則によって10年間は再び資格を取ることができないといいます。

まさに医師生命をかけた闘い、絶対に有罪を覆すしかありません。

◆“それでも外科医師が犯人だ”という声に答えてみる

日本医師会」が抗議の声を上げるほど、冤罪であることが明白なこの事件。

【159】医療関係者も激怒!! 乳腺外科医裁判、逆転有罪から2週間 - Free大助!ノーモア冤罪!

しかしネットなどでは、外科医師を犯人視する書き込みを見かけます。一部メディアの悪意に満ちた報道が元ネタになっているようです。私もこれらの記事に目を通しましたが、主に以下の2つのポイントから、犯人視しています。

  • ① 外科医師が患者の上半身を撮影した画像がある。
  • ② 警察はDNA鑑定の資料を破棄していない。

これらについて、法廷での外科医師本人の証言や弁護団の報告などをもとに、反証したいと思います。

◆撮影は通常の医療行為

まず①について。写真撮影を行ったのは事実です。胸の手術前・手術後を比較するためで、外科医師として当たり前の医療行為を行ったに過ぎません。

使用したのは病院のカメラで、撮影した画像データは電子カルテに取り込んだ後に消去。撮影の際に顔が映り込んでしまいましたが、カルテに取り込む際にトリミングしました。

この “顔が映り込んだ” という事実が一人歩きし、アヤシい印象を持たれてしまったようです。さらに画像データを自宅に持ち逃げした…という話も拡散されたようですが、これは事実無根。警察は外科医師の携帯電話や自宅のパソコンを押収しましたが、何も出てこなかったといいます。こうしたデマは、冤罪に付きモノです。

◆手洗いは犯罪事実に関係ナシだが

②について “外科医師=犯人” という人たちの主張は、以下のようなもの。

「警察は鑑定資料(外科医師の唾液)を採取するため、女性の胸をガーゼで拭った。このガーゼの残り半分は保管されているので、“資料を破棄した” とは言えない」

これはだからどうした?というレベルの言いがかりに過ぎません。そもそもの前提として……。

  •  実際に鑑定に使った部分のガーゼは破棄されている。
  • ガーゼから採ったとされるDNA抽出液も破棄されている。
  • 鑑定を記録したワークシートが都合良く改ざんされた疑いが強い。(鉛筆で書かれ、消しゴムで上書きした跡が複数ある)
  • DNAが出たことを証明するデータが提出されていない。

“これが犯人の証拠だ!!” と主張した当該部分を捨ててしまったわけですから、後になって半分が残っていると騒いでも意味はありません。

仮に残り半分のガーゼが重要な証拠になるのであれば、検察は真っ先に再鑑定を行っているハズ。しかしそんなハナシも聴きません。

法廷での外科医師の態度がヘンだったとあげつらう声もあります。しかし法廷というのは、日常とは異なるアブノーマルな空間。裁判官に見下ろされ、傍聴人の視線を背中に感じながら、検察官や弁護人の質問に答えなければならないのは、モノ凄いプレッシャーでしょう。

たとえ無実でも、緊張して態度がおかしくなるのは正常なことでないかと思います。

◆患者さんへの思いやりが冤罪をふせぐ

外科医師が当日の朝から手を洗わず、マスクも着けていなかったことを非難する声もあります。事件に直接関係ないことですが、突っ込まれる口実になってしまったと思います。 これについては、私も手洗いはすべきだったと思います。衛生面においても、エチケットという意味でも。

 裁判で最大の論点となった「せん妄」については、2019年2月の無罪判決の直後に弁護団と支援者の医師がこんなコメントを発信しました。

「海外では術後せん妄のガイドラインがある国が多いが、日本では医師の間では常識として共有されながら、症例報告が全くない。『せん妄が起こり得る』というガイダンスも患者に行われていない。述後せん妄対策がなされていなかったことが(訴訟に)大きく関係している」(高野隆・主任弁護人)

「術後せん妄の対応は現場の医師のさじ加減で行ってきたが(中略)医療界も術後管理に対してガイドラインをもう少しきっちり研究していかなければならないと思う」(佐藤一樹・東京保険医協会理事)

(m3.com 2019年2月20日配信記事より)

その通りだと思います。もし手術前に患者さんに “せん妄による幻覚で怖い想いをするかもしれない” とシッカリ説明していれば、そもそも事件にならなかったかもしれません。

日本の医師の男女比を調べてみました(厚生労働省『医師・歯科医師・薬剤師統計』より、2018年12月31日現在)。

  • 総数 327,210人
  • 男性:255,452人
  • 女性:71,758 人

80%近くを男性医師が占めていることがわかりました。女性医師の比率は約2割と、OECD経済協力開発機構)加盟国の中でも最低レベルだといいます(OECD平均で約45%)。

日本の医療現場では男性医師が女性患者を診ることも必然的に多くなるわけで、当たり前のつもりで行った医療行為が、“わいせつ行為をした”という冤罪を生んでしまうリスクが高い環境だと改めて感じました。やはり何らかの対策は必要じゃないでしょうか。

私は医療については勉強不足でなので言うのはおこがましいのですが、医師の間での常識と一般社会の常識に、少しズレがあるのではないかという印象です。

このズレを自覚し、患者さんを思いやってケアすることが、医療現場の冤罪防止につながるのかと思います。

医療従事者イメージ(イラスト=フリー素材集いらすとや)。

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