Free大助!ノーモア冤罪!

「北陵クリニック事件・無実の守大助さんを守る東京の会」事務局長の備忘録〜素人の素朴な目線から冤罪を考える〜

【141】いま、韓国がスゴい!!日本は“韓流司法改革”を見習おう

◆変わるアジアの国々と、変わらず置いてきぼりになる日本

ちょっと長い前置きを書きます。

昨年ベストセラーになった『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』という本を読みました。著者はスウェーデンの医師で、統計学者でもあるハンス・ロスリングさん。

この本は、私たち(とくに先進国)が世界の現実をまったく知らないということを、豊富なデータとともに教えてくれます。

たとえばこんなクイズ。

Q世界の1歳児で、なんらかの予防接種を受けている子どもはどのくらいいる?

  • A 20%
  • B  50%
  • C 80%

ネタバレになってしまいますが、正解は「C=80%」です。

著者が講演などでこの質問をしたところ、正解率はたったの10〜20%台。「A=20%」という回答が一番多かったそうです。回答者の中には、国際的な舞台で活躍しているビジネスパーソンや研究者も多くいたといいます。

こんな結果になってしまった原因として著者があげるのが “世界の大部分は貧しい” という思い込み。先進国だけが発展し、他の地域は未発達のままという40〜50年ぐらい前の価値観を、いまだに捨てられないといいます。

現実はまったく逆で、ここ20〜30年の間にアジアやアフリカは着実に豊かになってきました。1年単位でみるとわずかな成長率ですが、その小さな成長が積み重なって『80%』という数字につながっているのです。

「先進国」と「発展途上国」と世界を2つに分断するのも、もはや無意味だと著者は指摘します。

私は読み終わって、日本とアジアの国々についても同じことが言えると思いました。

“日本はアジア一の先進国。他の国は追いつけない” という思い込み、いまだに強いんじゃないでしょうか。

こんな幻想にしがみついていると、日本はアジアの発展から取り残されるでしょう。というか…すでに取り残されつつあります。

たとえば司法の分野(ようやく本題です)。

日本の現状は、国連から“中世レベル” と厳しく批判されています。やっていない!と否認している人を長期間拘束し、拷問まがいの取調べを許している日本は “先進国”であることを、自ら放棄しているようなものです。

その一方でアジア諸国では、冤罪救済に向けて目を見張る動きが起きています。今回は韓国について書いてみます。

韓国がスゴい!と言える、これだけの理由

これから書く内容は、安部祥太・青山学院大学助教授の講演をもとにしています。私は講演をYouTubeのライブ中継で観て、このブログでもシェアしたくなりました。

  • 文章は講演の動画をもとに私が勝手にまとめたので、文責は私にあります。 
  • 3月30日の「大崎事件」第5次再審請求の報告会で行われた講演です。
  • YouTubeのリンクを張っておきます。ぜひご覧ください。
    (記事はリンクの下に続きます↓)
  • www.youtube.com

◆日本の刑事訴訟法をベースにした韓国 

1910年の日韓併合によって、韓国は日本の植民地に。司法権は日本に掌握され、当時の日本の刑事訴訟法(刑訴法)がそのまま用いられました。 韓国独自の刑訴法が誕生したのは植民地解放から9年経った1954年で、以下のようなものでした。

「植民地時代の日本の刑訴法」+「アメリカの政令法」+「戦後制定された日本の新しい刑訴法(現行刑訴法)」=韓国刑訴法

しかし朝鮮戦争(1950〜53年)の混乱もあり「再審」の規定については十分に議論する時間がありませんでした。そのため日本の現行刑訴法の第435条以下をほぼそのまま流用し、現在に至っています。

なので、以下のような日本のダメな部分も流用されてしまいました。

  • 再審請求に対する裁判所の審理期間が定められていない。「いつまでに何をする」といった手続も明記されていない。
  • 裁判所が再審開始決定を出しても、検察が抗告してツブすことができる。
  • その結果、無実の人を救済するのに何十年もかかってしまい、最悪の場合は本人が亡くなってしまうこともある。

韓国では今、こうした制度の不備を見直そうという動きが進んでいます。

◆韓国を知るキーワード“過去事精算”

韓国の時事問題を語る上で、重要なキーワードが「過去事清算(かこじせいさん)」。これは1987年に民主化される以前の、軍事独裁政権時代の負の遺産清算する取り組みです。

軍事独裁政権下では多くの人々が不当逮捕され、拷問され、不公正な裁判によって刑務所に送られたり命を奪われました。こうした弾圧犠牲者の名誉回復と救済は、韓国の司法の重要課題となっています。

近年は4つの動きがありました。

①2017年「検察過去事委員会」の設置

「検察過去事委員会」は、文在寅ムン・ジェイン)大統領が法務部(法務省)に設置した委員会。過去にあった検察による人権侵害を調査し、改善策を勧告します。

調査した事件の1つに「薬村(ヤクチョン)五叉路殺人事件」があります。

これは2000年に起きたタクシードラーバー殺人事件。犯人として15歳の少年が逮捕され、拷問のような取調べによって“自白”させられ、裁判で有罪が確定し10年の服役を余儀なくされました。

元少年は満期出所した後に再審請求し、裁判所は再審開始を認めます。しかし検察は、これを不服として抗告します。

幸いなことに、最終的には再審無罪が確定。「検察過去事委員会」は、検察の抗告を厳しく批判し、以下のような勧告を出しました。

  • 再審手続における「機械的(※)な検察官抗告を検証すべき。
  • 検事総長元少年、その家族、被害者遺族に対し、謝罪を行うべき。

機械的=再審開始決定に対して、正当な理由もなくとりあえず抗告すること。日本では「大崎事件」の鴨志田祐美弁護士が“脊髄反射的な抗告”という表現で批判している。

実は検察は、早い段階で真犯人の情報を得ていたにもかかわらず、捜査も起訴もしませんでした。抗告することで時間を引き延ばして事件を時効に持ち込み、自分たちの失態をウヤムヤにしようと企んでいたらしいのです。

②2018年「国家人権委員会」による勧告

「国家人権委員会」は、三権(立法・司法・行政)のどこにも属していない独立機関。人権侵害を受けながら裁判所に救済されなかった個人が、救済を申し立てる駆け込み寺のような存在です。

ここに冤罪犠牲者の男性から、申立てがありました。この男性は連続殺人事件の犯人とされて無期懲役になり、刑務所の中から再審請求しました。裁判所は再審開始を認めたものの、検察は抗告。結局「大法院」(最高裁)まで争って再審無罪が確定しましたが、この間男性は釈放されず、身柄は拘束されたままでした。

これを受けて「国家人権委員会」は、以下のような勧告を出しました。

  • 法務部長官(法務大臣)に対して→検察官抗告を制限する刑訴法改善案を作ること。
  • 大法院長(最高裁長官)に対して→再審手続を迅速に進めるため、期限を定めること。再審専門の部署を設置すること。

「国家人権委員会」の勧告に法的な拘束力はありません。しかしながら、これまで出された勧告の履行率は93%にものぼっているといいます。残念ながら、日本にこうした役割を担う機関は存在しません。

③2019年「刑訴法改正」がいよいよ現実に

再審規定の改正案が作成され、国会に提出されようとしています。改正案には2つのポイントが盛り込まれています。

  • 検察による即時抗告を制限する。
  • 裁判所の審理期間を設定する(再審請求の申立てを受けてから1年以内、抗告審は6ヵ月以内)

この案を作った議員は “自分の在任中に必ず成立させる” と、高らかに宣言したといいます。この議員さんは、警察官僚出身だそうです。日本ではとても考えられません…。

再審規定改正の機運が高まった背景には、ある冤罪事件の存在がありました。

「華城(ファソン)連続殺人事件」と呼ばれるこの事件は、1986年〜91年にかけて起きた連続強姦殺人。10名の女性が犠牲になり、韓国社会の高い関心を集めました。

2019年9月に最新のDNA鑑定によって真犯人が明らかになり、裁判所は“犯人”として無期懲役が確定していた男性の再審開始を決定しました。検察は抗告せず、現在は無罪の言い渡しに向けた準備手続が進んでいるといいます。

④“公益の代表者”を誇りにする検事の登場

林恩貞(イム・ウンジョン)は、ソウルの女性検事。軍事独裁政権下の弾圧事件の再審を担当したときに、無罪求刑を行おうとしました。

しかし検察上層部は「白紙求刑」しろと圧力をかけてきます。これは裁判所にすべての判断を委ね、有罪も無罪も主張するなという意味です。

これに対して林検事は “公益の代表者として無罪を確信したのだから、無罪求刑するのが当たりマエ” と圧力を突っぱね、懲戒処分になってしまいます。処分を不服とした林検事は裁判所に訴えて勝利し、現在も検事として活躍しています。

林検事は検察上層部のセクハラや不正行為も告発しており、韓国における「#MeToo運動」の立役者にもなったということです。

もうひとりの女性検事、安美賢(アン・ミョンジョン)は、カジノ施設の職員採用不正事件で、与党議員らの関与を指摘。しかし与党や検察上層部から圧力を受けます。

それにも負けず、逆に圧力をかけた上層部の実名を公表。 “公益の代表者” という信念がそうさせたといいます。そして林検事と同じく、現在も検事として活躍しています。

⑤改革を後押しする国民の関心

これまで紹介した事件のうち2つは、映画化されています。

  • 「薬村(ヤクチョン)五叉路殺人事件」→『善悪の刃』(2017年)
  • 華城(ファソン)連続殺人事件」→殺人の追憶(2003年)

後者の『殺人の追憶』は、アカデミー受賞作『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督と、主演俳優のソン・ガンホがはじめてタッグを組んだ作品です。

国民的な人気俳優による映画の題材にもなるほど、韓国社会の冤罪や再審に対する関心は高いといいます。

◆いっそのこと、日本は司法修習を韓国でやればいい

以上、安部祥太助教授のお話をもとに、韓国の取り組みを紹介してきました。警察が拷問のような取調べを行ったり、検察が再審開始決定に抗告したり、日本と似たような状況もあります。

でもそんな状況を何とか変えよう!という人々の志の大きさは、雲泥の差。警察官僚出身の国会議員が改革を推進し、正しい使命感を持った検察官が活躍し、人々の関心も高いなど、日本の現状を考えると本当にうらやましいぐらいです。

いっそのこと、日本は司法修習を韓国にアウトソーシングすればいいとさえ思ってしまいます。

日本には “嫌韓、断韓” などと韓国をバカにする風潮もありますが、今はそんなことを言っている場合ではありません。日本が一番なんて思っていたら、ますます国際社会から取り残されていくでしょう。

 韓国映画『善悪の刃』(上)と、『殺人の追憶』(下)。

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