Free大助!ノーモア冤罪!

「北陵クリニック事件・無実の守大助さんを守る東京の会」事務局長の備忘録〜素人の素朴な目線から冤罪を考える〜

【129】“回答は差し控えます” 絶望の最高裁判所

最高裁が考える「裁判官の独立」って何だ?

前回のブログで “裁判所には冤罪の再発防止策を期待できない” と書きました。今回はその理由について、昨年10月の最高裁判所要請で感じたことを書いてみます。

この要請は、毎年恒例の「司法総行動」の一貫として行ったもの。冤罪を生まない真っ当な司法を実現して欲しいという声を、最高裁に届けました。もう5ヵ月前のことですが、内容はまったく古びていないので紹介します。

(そもそも「司法総行動」とは何か?については、こちらを参照ください)

【76】「司法総行動」で守大助さんの無実、訴えました。 - Free大助!ノーモア冤罪!

10月4日の午後、いろいろな冤罪事件の支援者仲間や弁護士とともに、最高裁を訪ねました。対応してくれたのは、秘書課の2人の職員。40〜50代と思われる女性と、20〜30代と思われる男性でした。

その手には、事前に渡しておいた要請書が携えられていました。要請書は「司法総行動」の実行委員会が作成したものです。

それに対する最高裁の見解を、この日聴くことになっていました。今回とくに強く要請したのが、以下のポイント。要請書から一部を抜粋して紹介します(句読点など一部、編集しています)

  • 最高裁の主導で、第三者委員会の設置等、誤判の原因を究明し、冤罪の根絶に向けた取り組みに着手することを求める。
  • 近年、足利事件志布志事件布川事件、元厚労省局長事件、偽メールなりすまし事件、東住吉事件など多くの冤罪が明らかとなっている。
  • こうした冤罪が生み出される原因は、もっぱら捜査機関(警察・検察)における違法・不当な捜査、自白強要などがあるが、同時に捜査機関の違法・不当な捜査・立証を裁判所が容認してきたことも一因である。
  • しかし裁判所は、誤判・冤罪の原因究明について検証を行っておらず、反省・改善策も明らかにしていない。

 まさに前回のブログで書いた “ 根本的な冤罪の再発防止策をやって欲しい!” というお願いをしたのですが、それに対する最高裁の回答というのが…。

「個別の裁判体の独立を脅かすことになるので、最高裁としての回答は差し控えます」

という素っ気ないものでした。

少し補足をすると “個別の裁判体” というのは、地裁や高裁の裁判官のこと。3人の裁判官(裁判長、右陪席、左陪席)の合議によって審理を行い判決を下すため、このように呼ばれます。

要は日本国憲法で保証された「裁判官の独立」を侵害することになりかねないから、コメントできないと言いたいらしいのです。確かに76条には、こんな規定があります。

すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される

だから最高裁であっても、個別の裁判体を “拘束” できないという理屈でしょう。

憲法の研究で知られる弁護士・伊藤真(まこと)さんも、このように書いています。著書『伊藤真の日本一わかりやすい憲法入門』中経出版から引用します。

裁判官の独立は、司法権の独立の根幹をなす重要な原則です。裁判官が職権を行使する際に、政治権力はもちろん、裁判所や上司である裁判官からもいっさい指示、命令などを受けないということを意味します。外部の政治的な圧力からのみならず、司法府内部の統制からも独立させなければ、実質的に裁判官の職権の独立を図ることができないと考えられたのです。

しかし今回の対応については、ちょっと待て!と言いたい。

私たちが要請書の中で「冤罪」として挙げたのは、DNA鑑定の誤りなどが明らかになって「無罪=無実」が確定した事件ばかり。まだ裁判で争っている「北陵クリニック事件」や「袴田事件」は、入れていません。

つまり、他ならぬ裁判所自身が過ちを認めた事件だけを「冤罪」としているのです。ならば最高裁が襟を正し、再発防止の音頭を取るのは当たり前でしょう。それを「裁判官の独立」に話題をスリ替えて回答を拒否するとは…。司法の最高機関としての責任を放棄して、逃げ回っているとしか思えません。

 ◆最高裁に「言論の自由」はなかった?

要請の参加者は皆あきれて言葉を失ってしまいましたが、 かろうじてこんな問いを投げかけました。

    • Q:「冤罪を生まない司法を実現しようという認識は、私たちと共有していただいてますよね?」
    • A:「回答は差し控えます」
    • Q:「日本国憲法にのっとって司法を運用しようという意思は、おありですよね?」
    • A:「回答は差し控えます」

 最高裁の職員は、この程度の質問に答えることも禁じられているのでしょうか? だとしたら、本当に恐ろしいことです。 

私も、こう伝えました。

  • 「たとえば自動車メーカーが欠陥車を販売してしまったら、本社の責任でリコールをかけて対応する。これが一般企業の常識だ。もし “個別の工場の問題なので、本社は感知しない” などと言ったらどうなるか…? 」

秘書課の2人は、ただ黙っていました。言わんとしていることを理解してもらえたか、かなり不安です。

◆「大崎事件」決定文、いまだに実名は記載されたまま

さらに今回は、こんな要請も行いました(要請書より)

ホームページへ掲載する判決や決定については、実名掲載はしないこと。なお、現時点において実名掲載されている鹿児島・大崎事件の当事者名については、一刻も早く削除すること。

これは言うまでもなく、昨年6月に最高裁が再審を取り消した「大崎事件」についてです。

(概要については、こちらを参照ください)

【111】「大崎事件」再審取消の裏にある許せないハナシ - Free大助!ノーモア冤罪!

【112】「大崎事件」最高裁決定に対する各団体の声明 - Free大助!ノーモア冤罪!

要請書が問題にしているのは、最高裁のHPで閲覧できる決定文に、原口アヤ子さんの実名が記載されていること。通常はプライバシーに配慮して、仮名での記載が当たり前。実名が出るのは、極めて異例なことです。

最高裁は “事件の知名度や社会の関心によっては、実名掲載もあり得る” と回答していますが、本当でしょうか?  私はどうしても “見せしめ的” な意図を感じてしまうのです。

決定文のリンクを張っておきますが、アヤ子さんの人格を否定するような表現も見受けられます。“おカミに逆らって無実を訴えるとは、ケシカラン!!” と恫喝しているとしか思えません。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/759/088759_hanrei.pdf

 本当にこれが最高裁のやることなのか? 要請の参加者が口々訴えた怒りに対して、秘書課の2人はこう答えました。

「HPは広報課の管轄なので、その担当者に伝えておきます」

 そして要請から約5ヵ月を経た現在もなお、決定文は原口アヤ子さんの名前が記されたままの状態で公開されています。

 最高裁が「人権の砦」なんてウソだ!

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