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「北陵クリニック事件・無実の守大助さんを守る東京の会」事務局長の備忘録〜素人の素朴な目線から冤罪を考える〜

【98】検察に冤罪救済部門が!?『アメリカにおけるえん罪救済の最前線』

■26年間で2300人以上の無実が明らかに!!

1月12日(土曜日)、立命館大学 大阪いばらきキャンパスで行われたシンポジウム『アメリカにおけるえん罪救済の最前線』に参加してきました。

アメリカでは「イノセンス・プロジェクト」と呼ばれる、科学者や弁護士が中心となった冤罪救済活動が1992年にスタート。それから約26を経た現在までに、2300人以上もの有罪確定者の無実が明らかになっています。この中には死刑や終身刑を宣告されていた事例も多く含まれています。

1年間で何と、平均約90人が雪冤を果たしている計算になります。日本で再審無罪を勝ち取ったのは、1910年代から現在までの間でわずか16件…。アメリカの数字は本当に驚異的です。今回は「イノセンス・プロジェクト」を推進する3人のキーパーソンが来日し、取り組みの最前線を報告しました。

左から、アイラ・ベルキン教授(ニューヨーク大学教授、アジア法研究所US-ALI事務局長)、クリス・ファブリカント弁護士(イノセンス・プロジェクト訴訟戦略部門長)、サイモン・A・コール教授(カリフォルニア大学アーバイン校教授)。

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■データベースで2300件以上の冤罪の原因を可視化

実はアメリカでも “充実した司法制度の下で冤罪事件など起きるはずがない” という神話が、長年にわたって信じられてきました。しかし1989年、最初のDNA鑑定による雪冤をきっかけに冤罪の存在が次々に明るみに。これを受けて始まった「イノセンス・プロジェクト」は、検察や裁判所も巻き込んだ一大ムーブメントとなります。

イノセンス・プロジェクト」の目的は、大きく2つあります。

  1. 過去の冤罪事件の発見と救済
  2. 冤罪を生まない制度改革や政策提言

過去を教訓に、2度と同じ過ちを起こさない未来を創ろうというわけです。実際この26年の間に、いろいろな進展がありました。

  •  DNA資料(証拠)への弁護側のアクセスを保証。警察・検察による資料の保管も義務付けられる
  • 警察・検察による取調べ全課程の録音・録画の義務付け。
  • 検察による全ての証拠開示の義務付け。
  • 検察庁内部に過去の冤罪事件を調査する部門を設置。
  • 裁判所内に冤罪捜査委員会を設置(ノースカロライナ州)。
  • 州によっては死刑制度を廃止(イリノイ州など)…など。

 冤罪救済部門のある検察庁は全米約2300のうちまだ23ヵ所だそうですが、設置されたという事実自体がスゴいと思います。今後も流れは止まらないでしょう。

もうひとつ、スゴいと思ったのが「全米雪冤者データベース」の存在。2300件以上の事例がすべてデータベースに登録され、冤罪の原因が定量的・統計的ににわかようになっているといいます。日本では信じられないハナシです。

日本人の参加者の1人は “まるで飛行機の事故防止策のようだ” と感想を述べていました。1件の墜落事故が起きると原因が徹底的に究明され、同じ原因による事故は2度と発生しないよう万全の策が取られる。「イノセンス・プロジェクト」の取り組みもソックリだと言うのです。 本当にその通りです。

データベースによって分析された冤罪の原因。「偽証・誤った告訴」「裁判官・検察官・警察官等の非違行為」が多いのは、ある意味で日本ソックリ。

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■もっと早く『冤罪』を学んでいれば、もっと良い検察官になっていた

報告者の1人、アイラ・ベルキン教授は元・連邦検察官。質疑応答の時間に “現役の検察官時代『冤罪がある』という認識を持っていたか?” と質問してみました。 

日本では “自分たちは絶対に正しい。一度起訴したら100%有罪にするし、再審も認めない” という検察の異常な傲慢さが冤罪を生む原因になっています。そこでアメリカの検察官はどんな気持ちで仕事にのぞんでいるのかを聴いてみたかったのです。

アイラ教授はしばらく考え込んだ後、このように答えました。

「誰もが無実の人間を訴追したくて検察官になるワケではありません。ただし人間の性(さが)として、自分の過ちを認めたくないものだし、実際に検察官が過ちを認めないケースもたくさんあります。

私自身もキチンと調査し、十分な証拠を積み上げた上で起訴していたし、自分が誤っているという認識はありませんでした。おそらく検察官の意識は、日本もアメリカも大きく変わらないと思います。それを変えていくには、イノセンス・プロジェクトのような運動しかありません。すべての検察官の意識を変えるのは難しいかもしれませんが…」

しめくくりに “もし現役時代に冤罪について研修を受ける機会があったら、私はもっと良い検察官になっていたかもしれません” とも語ったアイラ教授。答えにくい質問に、正面から答えてくれました。果たして日本で、こうした誠実さと謙虚さを持っている検察官はいるのでしょうか? いると信じたいものですが…。

元・検察官としての心情を語ったアイラ・ベルキン教授。

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 ■台湾、韓国、中国も動き始めている

イノセンス・プロジェクト」が進んでいるアメリカでさえ、まだたくさんの問題があるといいます。全米230万人の服役囚のうち、20万人以上が冤罪の可能性があること、警察の鑑定人による証拠のねつ造や、検察が過ちを認めないケースも依然としてあるなど…。日本とソックリな部分もありますが “こんな状況はダメだ、何とかしなきゃ!” という意識の高さは雲泥の差です。

冤罪根絶に向けた動きは世界各地でも生まれており、アジアでは台湾が「イノセンス・プロジェクト」にいち早く取りかかっています。昨年その総会に参加した布川事件の桜井昌司さんは “検事総長が出席して挨拶を述べたことに大きな感銘を受けた” と振り返ります。

 韓国でも、取調べへの弁護人の立ち会いや録音・録画が始まっています。また自由な言論や活動が制限されている中国でも、北京の弁護士有志などによって冤罪をなくそうという取り組みが始まっているそうです。

日本でも、今回のシンポジウムを主催した『えん罪救済センター』(日本版イノセンス・プロジェクト)が立ち上がるなど、他国に遅れを取りながらも状況が動きはじめています。この流れを断ち切らないよう、できることにチャレンジしていきましょう!(了)

日本版イノセンス・プロジェクト「えん罪救済センター」のHPはこちら!!

www.ipjapan.org