【63】袴田巖さんと守大助さん〜トータルで見れば無実は明らか〜
袴田巖さんの再審開始決定が東京高裁で取り消されてから、もうすぐ1週間になります。袴田さんの無実を決定付けた、本田克也・筑波大学教授のDNA鑑定を否定しての取り消しでした。
4年前、静岡地裁における再審開始決定を後押ししたのは、この本田鑑定でした。
今回の取り消しを報じたマスメディア各社の報道も、“DNA鑑定の信用性に対する評価が決定を分けた” という論調でしたが、実は袴田事件において、DNA鑑定というのは枝葉末節な問題です。(異論はあると思いますが、あえて言い切ります)
ここだけを切り取ってフォーカスして再審の是非を争うこと自体、ナンセンスですし、それこそ検察の思うツボです。実際に検察は、本田鑑定を執拗に攻撃してきました。
◆そもそもの前提として袴田事件の問題点とは?
トータルで見ていきましょう。
- 警察は “元ボクサー=野蛮な奴” という偏見で、袴田さんを犯人と決めつけた。
- 1日平均12時間、拷問的な取り調べを2週間以上続けて自白させた。
- 当初、袴田さんはパジャマを着て犯行に及んだとされていた。
- ところが警察は事件から1年以上も経ってから、“実はこっちを着ていました” という新しい犯行着衣=いわゆる“5点の衣類” を発見した。
- “5点の衣類” は、被害者宅に隣接する味噌工場のタンクから発見された。
(本田鑑定はその1つであるシャツに残された血痕のDNAを、袴田さんのモノではないと結論づけた)
- “5点の衣類” は味噌の染まり具合からして、1年以上もタンクに漬かっていないのは明白。=警察が捏造した疑いが強い。
- しかも衣類のひとつであるズボンは小さすぎて、袴田さんは履けない。
- 警察の実況見分調書などに、袴田さんを犯人に仕立て上げるために改ざんしたヵ所が見受けられる。
他にも細かく説明すればキリがないのですが、どうでしょうか?
袴田さんは警察によって、強引に犯人にデッチ上げられたのは明白ですよね。この前提を無視してDNA鑑定だけを切り取って議論するのがいかに無意味か、おわかりいただけると思います。
◆守大助さんのケースも、袴田さんソックリ
大助さんの再審で最大の論点となっているのは警察の鑑定の信用性。
その鑑定というのは…“被害者とされる5人の患者の尿や血液、点滴液を鑑定したら、
筋弛緩剤の未変化体を示すmz/258が検出された” というものです。
大助さんの弁護団は、“筋弛緩剤の未変化体で検出されるのはm/z279である。だから警察の鑑定は間違っている” という主張を軸に闘っています。
258、279、未変化体…何だか難しいハナシですね…。実際に鑑定をめぐる資料を読んでいると、頭がクラクラしてきます。しかし難しい鑑定論をパーフェクトに理解できなくても、大助さんが無実であることは十分にわかります。
◆そもそもの前提として、北陵クリニック事件が冤罪である理由とは?
- 大助さんには犯行を行う動機がない。“処遇に不満があって犯行に及んだ”とされているが、実際は大助さんは不満を抱いていなかった。
- むしろクリニック内における処遇も人間関係も良好で、同僚看護士との結婚も控えていた。
- “筋弛緩剤による” とされている患者さんの急変は、いずれも病気や筋弛緩剤以外の薬の副作用によるもの。
- そのことは担当医師のカルテに明記されている。
- しかし警察がカルテを押収したのは逮捕から10日も経ってから。=最低限の裏付け捜査さえ行わず逮捕に至った。
- 警察は患者さんに接する機会の多かった大助さんを早い段階から“犯人”と決め付け、逮捕ありきで暴走してしまった。
- そもそも筋弛緩剤による犯行のハズなのに、筋肉の弛緩が見られない。=“筋弛緩剤を使った犯行”というのは警察が思い込みで作り上げた妄想である。
- 警察は “オマエが犯行を否認するなら、婚約者の彼女を逮捕するぞ!”など、脅迫的な取り調べで責め立てて自白に追い込んだ。
- 犯行に使われた筋弛緩剤の空容器が19本あるとされている。
- しかしその空容器の現物が一度も提出されていない。
- あるのは、容器のロット番号が伏せられた状態で撮影された写真だけ。=警察または検察が捏造した疑いが強い。
肝心の警察の鑑定も…
- 鑑定を行っていれば当然あるハズのデータや実験ノートが提出されていない。
- 試料(尿、血液、点滴液)は何百回から何千回も鑑定できる量があった。
- にもかかわらず、警察は全量使い切って残っていないと主張。
- 試料を捜査班から鑑定を行う科捜研に渡した際に当然作成されているハズの
- 「受渡簿」も提出されていない。=鑑定を行ったことを客観的に証明するモノが何もない!
袴田さんの “5点の衣類” 同様に、大助さんの鑑定も警察によってデッチ上げられた疑いが強いですよね。鑑定結果の数値を争う以前の問題です。そして他の要素も併せれば、大助さんの無実は明らかです。
繰り返しになりますが、そもそも筋弛緩剤を使った犯行など存在しないのです。患者さんの急変が続いたのを、警察が勝手に怪しいと思い込み、大助さんを犯人とする架空のストーリーをデッチ上げ、事件に仕立て上げてしまったのです。
もちろん鑑定論は大切です。難しい科学のステージで奮闘している弁護団には、本当に頭が下がる想いです。大助さんの有罪を維持する柱が警察の鑑定である以上、そのデタラメさを追求するのは不可欠です。
しかし私たち支援者は、鑑定論だけを切り取って袋小路にハマっていてもダメなんです。 やはり大切なのは、全てを俯瞰して見ること。大助さんが何故無実なのか、わかりやすく社会に発信しなければなりません。
実は最高裁判所も 1975年の “白鳥決定” で、“証拠は個別でなく総合的に判断しろ” という主旨のことを言ってるのです。白鳥決定について説明をするとまた長くなりますので、ぜひ検索してください。冤罪と再審を知る大切なキーワードですので。
今回はちょっと長くなりましたが、このぐらいで。