【55】“黙秘はケシカラン”と“セクハラ被害者は名乗り出ろ”
前回の “疑わしきは被告人の利益に” に続いて、
今回は“黙秘” について書きます。
正しく理解されていないように思うので。
警察の取調べや裁判の法廷で “黙秘している” というと、
“ケシカラン奴だ!” という印象を持ちますよね?
メディアも“黙秘=フテブテしい奴” という文脈で報道します。
もし無実なら堂々と“やってない”と言えばいいじゃないか…という意見、
一見もっともに聴こえます。
ある裁判員裁判では黙秘を貫いた被告人に対して、
“本当のコトを語って欲しかった” と感想を述べた裁判員がいました。
こちらも正論に聴こえますが、実はちがうんです。
黙秘というのは私たち市民が、
強大な権力から身を守るために与えられた、
尊い権利なのです。
このブログでも度々書いてきましたが、
警察は一度コイツが犯人だ!と思い込んだら、
取調室でトコトン締め上げて自白させようとします。
自分たちが考えた犯行のシナリオに合わせて、
強引に喋らせて自白調書をデッチ上げます。
そのデタラメな自白が裁判では “信用性がある” となって、
有罪判決が下されるコトもよくあります。
法廷では検察が被告人にいろいろ質問をします。
ただの質問なら良いのですが、
“被告人=犯人=有罪にすべき” という前提で、
巧みに誘導してくることもあります。
こうした権力の横暴から身を守るには、
一切を語らない=黙秘するのが一番。
強大な権力を持つ警察・検察・裁判所に対して、
何の権力も持たない私たち市民に与えられた最善の防御策。
それが黙秘権なのです。
守大助さんも逮捕されたその日に、
デタラメの自白をしてしまいますが、
警察署に駆けつけた弁護士から、
“やってないならやってないと言って、黙秘しなさい”
とアドバイスを受けた後は黙秘を貫きました。
刑事は激怒し、
「ふざけるな!何が『やってません!黙秘します!!』だ。なめてるのか!」
とさらに苛烈な取り調べを行いましたが、
大助さんは一通の自白調書も取らせませんでした。
先ほどの裁判員裁判に、話しを戻します。
裁判員は、黙秘の意味を理解していなかったのでしょう。
これは本当に恐ろしいことです。
裁判員みんなが
“黙秘なんてケシカラン奴だ!こんな奴は死刑に!”
と思ったらどうなるでしょうか?
裁判は公開私刑(リンチ)の場になってしまいます。
ただでさえ日本は死刑賛成派が多く、
“ワルい奴は吊るせばいい” という感情が渦巻いています。
無実を訴え黙秘をする被告人が、
次々に厳罰に処される恐ろしい社会になるでしょう。
財務省のセクハラ問題では、
“被害女性は堂々と名乗り出ろ” という声が上がりました。
“黙秘せず堂々と話せ” という意見にソックリです。
ちゃんと名乗り出れば、堂々と話せば分かってくれる…。
国家権力とは、そんなモノじゃありません。
なぜ黙秘権があるのか? 今一度心に留めておきたいですね。
守大助さんと阿部泰雄弁護士の共著「僕はやってない!」。
取り調べの様子も詳しく書かれています。いずれ紹介します。