Free大助!ノーモア冤罪!

「北陵クリニック事件・無実の守大助さんを守る東京の会」事務局長の備忘録〜素人の素朴な目線から冤罪を考える〜

【122】先週金曜日の袴田巖さん

◆よくぞ生きて戻ってきた!

本日のフランシスコ・ローマ教皇の東京ドームミサ、盛況だったようですね。約5万人の参加者の中には、袴田巖さんもいました。教皇との面会も期待されていましたが、残念ながらかなわなかったようです。袴田さんは死刑確定後の1984年12月、東京拘置所カトリックの洗礼を受けました。

私はミサには参加しませんでしたが、これに先立つ先週金曜日に開催された集会で、袴田さんの姿を目にしました。その集会とは『いのちなきところ正義なし〜日本の死刑制度の今後について〜』。死刑廃止に取り組む聖エジディオ共同体(イタリア)や日弁連超党派の議員による国際色豊かなシンポジウムに、巖さんが姉の秀子さんとともにやって来たのです。(写真の下に続く)

袴田巖さん会場入り。

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会場の衆議院議員会館に袴田さんが姿を現したのは、シンポジウムが始まって10分ぐらいした頃。ローマから来た主催者の方(資料を紛失してしまいお名前を忘れてしまいました…)のスピーチの途中でしたが、マスコミは一斉に袴田さんに。抜きん出て高い注目度でした。というか…大部分のメディアは袴田さん目当てで集まっていたようです。

ゆっくりとした足取りで席に着き、一言も言葉を発しない袴田さん。体調がすぐれないのか、10分ほどで控え室に退席しました。今も袴田さんは、拘禁症状が続いているといいます。長年にわたって拘置所に閉じ込められ、“いつ自分の死刑が執行されるのか”という恐怖感がどれほどのダメージを心身にもたらしたのか…ちょっと想像が付きません。

会場に残った秀子さんは、シンポジウムの最後にこのように語りました。

拘置所から出てきて6年になりますが、今でも巖は自分の世界を作って、その中で生きています。6年そこらでは元の精神状態には戻れません。戻らなくてもいいと思っています。それよりも、48年を経てよくぞ生きて戻ってきた!と思います」。

最後の方は少し涙ぐんでいたように見えました。“戻らなくてもいい” “よくぞ生きて戻ってきた!”という言葉には私も思わず、もらい泣きをしそうになりました。(写真の下に続く)

力強く訴える袴田秀子さん。

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◆検察の悪行を絶対に許さない

袴田巖さんは、典型的なデッチ上げ冤罪の犠牲者です。しかしながら、現在も「確定死刑囚」です。何故なら、検察が再審開始を妨害し続けているからです。

2014年3月に静岡地裁が再審開始を決定したものの、これに検察が不服を申し立て、18年6月に東京高裁が再審開始を取り消し。闘いの場が最高裁に移って1年以上になります。つまり最高裁の決定次第では、袴田さんは再び死刑囚として拘置所に逆戻りということもあり得るのです。もちろんそんな事態、絶対に阻止したいと思っていますが…。

これまでの経緯については、こちら。

【92】袴田事件・袴田巖さんの再収監を許さないアピール(全文紹介) - Free大助!ノーモア冤罪!

最高検察庁は、袴田さんの再収監を求める意見書を最高裁に出しています。霞ヶ関にある最高検察庁は、日本の検察を束ねる最高機関。つまり検察のトップが直々に“袴田さんを死刑台に連れ戻せ!”と言っているのです。

これだけ無実が明白で、しかも拘禁症状を患っている人を“殺せ”など、狂気の沙汰としか思えません。検察にとっては人の命よりも、一度確定した死刑判決は覆したくないという国家のメンツを守る方が大切なのです。これが日本の司法で絶大な権力を発揮している、検察の正体です。もっと多くの人に、このことを知って欲しいと思っています。

私は絶対に検察を許しません。マスメディアもこれだけ袴田さんに集まってくるのですから、検察の悪行をもっと報道して欲しいと願っています。

着席し、ゆっくりと帽子を取る袴田巖さん。右が秀子さん。

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【121】棄却を受けて、守大助さんからのメッセージ

11月13日の最高裁の棄却を受け、守大助さんからメッセージが届きました。例によって弁護団を通して、全国の支援者にFAXで届けられました。

最高裁から郵送で、弁護団に棄却決定が届いたのが15日。大助さんはその日のうちに筆を取ったのでしょう。全文を紹介します。(※数字)は当方で補足しました。

第三小法廷、裁判長林は!就任会見で発言したことを!守ることなく、証拠を無視し(※1)、真実から目を背け11月13日“棄却”決定しました。

私はやっていない。どこへ訴えれば、公正な裁判をしてもらえますか。

気がつけば、日脚もめっきり短くなり、冬の到来を実感しています。皆さん、お元気ですか。これまで「仙台北陵クリニック・筋弛緩剤冤罪事件」のために、貴重な時間を費やしてご支援して下さり、心より感謝しております。ここまで負けずに闘うことができたのは、皆さんの温かく、そして力強いご支援があったからです。第一次特別抗告では、仙台地裁、仙台高裁のデタラメな審理が見直されると信じていたのに、職権での証拠調べ、証人尋問せず、これまでの下級審の判断が信用できると、たった一枚の紙切れで棄却決定されました。

どうしたら私たちが、被害者とされる患者さんの血液検査できますか?(※2) 科学の世界では、土橋鑑定(※3)は間違いであり、信用できないとされているのに、なぜ裁判所だけ信用できると認定しつづけるのか? ましてや!検出された物を再審になって検察は主張を180度転換し!間違いであったことを認めているのです(※4)。それでも裁判所は事件だと…。

私は弁護団の先生たちと、直ちに第二次再審請求へ進みたいと思います。次こそ真実を裁判所に分からせるため、負けず私は闘います。どうか全国の皆さん、勝利するまでお力をお貸し下さい。

2019.11.17 無実の守大助

“どこへ訴えれば、公正な裁判をしてもらえますか。”日本の司法が現在のような状況では、この大助さんの叫びは決して他人事ではありません。

もはや多くを語る必要はないと思いますが、4点だけ補足説明をしておきます。

※1 林景一裁判官の発言「冤罪はあってはならないことであり、裁判の段階においては先入観にとらわれず、証拠に基づいた裁判をしていく」(朝日新聞2017年10月12日)

※2 再審請求の中で、弁護団は“被害者とされる1人の症状は筋弛緩剤によるものでなく、難病の「ミトコンドリア病」である可能性が高い”と主張。

それに対して仙台高裁は“診療録を基にした推測であり、患者のDNAや血液を直接検査していないからダメ”と退けた。ここまで言うなら裁判所が検察に命じて、血液検査を実施すれば良いのに、それすら行わず棄却した

※3 土橋均(つちはしひとし・当時、大阪府警科捜研技官)による鑑定。“被害者とされる5人の患者の尿、血液、点滴液から筋弛緩剤の成分が検出された”とされ、守大助さんの有罪の根拠になっている。しかし鑑定数値の誤りがある上に、データやノート、受渡簿といった鑑定を適切に行ったことを客観的に証明するモノが一切提出されておらず、とても“鑑定”と呼べる代物ではない。

※4 検察も杜撰な土橋鑑定をかばい切れないのか、正しいと主張しなくなった。また検察側を擁護する、いわゆる“御用学者“がいないのも、この事件の特徴。

一番言葉を失ったのが、林景一裁判官の言葉。今回の棄却決定は“先入観にとらわれない証拠に基づいた裁判”を行った結果でしょうか? 一体どのツラを引っさげて…と言いたくなります。

まずは林裁判官あてに、抗議のハガキや電報を集中させましょう。裁判官に物申すのは、私たちの当然の権利。決して悪いことではありません。ただし暴力的な言葉、たとえば“死ね”とか“ガソリンまくぞ”というのは、絶対にやめてください。あくまでも道理にのっとった抗議文をお願いします。もちろん私も送ります。

【抗議先】

〒102-0092 東京都千代田区隼町4-2 最高裁判所第三小法廷 林景一裁判長

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【120】これを読んでください!守大助さん無実の理由

◆冤罪のポイントについて書いた、過去の記事まとめ

最高裁の決定について、すでに複数のメディアが報道しています。しかしこの事件がとんでもない冤罪である点までは、突っ込んで報じていません。

そこで、このブログで過去にアップした記事のリンクを貼っておきます。読んでいただけば、なぜ守大助さんが無実なのか? 警察、検察がいかにヒドいデッチ上げを行い、それを裁判所が追認してきたのか…、おわかりいただけると思います。

◆事件の発端〜取調べについては、こちらの2本を

daisuke0428.hatenablog.com

daisuke0428.hatenablog.com

 ◆あの「袴田事件」との、驚くほどの共通点について書きました

daisuke0428.hatenablog.com

◆阿部泰雄弁護団長のお話:大助さんを有罪とする最大の根拠となっている鑑定が、いかにズサンなものかおわかりいただけます

daisuke0428.hatenablog.com

daisuke0428.hatenablog.com

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11月12日には大助さんのご両親が上京し、最高裁へ要請を行ったばかりでした。要請終了後に、お母様の守祐子さんは「長い闘いになると思いますが、よろしくお願いいたします」と、支援者に向かって挨拶をしました。

そして今回の棄却を受けて「今後も命ある限り闘い、大助を取り戻します」と語りました。

しかし、もう古希を過ぎたご両親。“両親が元気なうちに出たい” という大助さんの願いを叶えるには、時間がありません!

第2次の再審請求をすることになるでしょう。一刻も早く、闘いに決着を!

 11月12日の最高裁要請の後、支援者集会で訴えるご両親。この翌日、棄却決定。

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【119】速報!!最高裁は、守大助さんの再審請求を棄却しました

本日、弁護団を通して連絡が入りました。

最高裁判所は11月13日付で、「北陵クリニック事件」の再審請求を棄却。守大助さんの無実を訴える切実な声を、門前払いにしました。

最高裁第三小法廷」5人の裁判官全員一致の決定とのことです。取り急ぎ、ここにお知らせします。

早くも時事通信産經新聞が報道していますが、この事件の冤罪性については言及されていません。報道機関の第一報など、しょせんこの程度。仕方ないでしょう。

言うまでもなく、今回の決定に対しては厳重に抗議します。6月の「大崎事件」の再審請求棄却に続く、最高裁の蛮行です。

続報は改めて、お知らせします。

そして「東京の会」は、守大助さんの自由を勝ち取るまで、闘い続けます。

これからもよろしくお願いいたします。

 

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【118】「湖東記念病院事件」滋賀県警は無実をわかってて逮捕か(怒)

前回書いた「飯塚事件」。改めて関連する本や新聞記事を読んでいますが、本当に暗澹たる気持ちになっています。警察・検察・裁判所はこんな醜いことをしてまで、無実の人間の命を奪うのか!と、怒りを感じています。

このブログの “主人公” である、守大助さんの「北陵クリニック事件」についても、いろいろ書きたいことがあります。この2事件の続きについては、近いうちに改めて整理してアップします。

西山美香さんの17年は何だったのか!?

さて先週末、西山美香さんの「湖東記念病院事件」について、許せないニュースが飛び込んできました。複数のTVや新聞で報道されていますが、そのなかから「関西テレビ」のリンクを貼っておきます。

【解説】重要証拠を「隠ぺい」か?滋賀県警は西山さんの「12年の服役」に報いる「説明責任」を果たせ(関西テレビ) - Yahoo!ニュース

重要なヵ所を、引用します。

滋賀県警が殺害を否認する重要な捜査書類を、今年7月まで検察に提出していなかったことがわかりました。刑事訴訟法では捜査書類を“速やかに”検察に送ることが定められていますが、滋賀県警がこれに反して有罪立証に不利となる「消極的な証拠」を隠していた疑いがあります。

〈中略〉

裁判所の決定を受け弁護側が検察に証拠の開示を求めたところ、人工呼吸器を故意に外したことを否定する西山さんの手書きの自白調書が逮捕前につくられていたことがわかりました。
 ほかにも「男性患者はたんが詰まったことが原因で死亡した可能性がある」という医師の所見が記された捜査報告書も開示されました。どちらの書類も滋賀県警は検察に提出していませんでした。

もし、滋賀県警が速やかにこれらの書類を検察に送っていたら、起訴の判断に影響を与えたかもしれないような重要な証拠です。

要するに、患者さんが亡くなった原因は、人工呼吸器のチューブを引き抜いた人為的なものでなく、たんが詰まった自然死である可能性が高かった。それを滋賀県警は早い段階から把握していたにもかかわらず、西山さんを逮捕し強引に自白させた。しかも無実の可能性を示す証拠を、検察に送らずに隠していた!!

このブログでもつい最近 “無罪になるからと言ってハッピーエンドだと喜んでばかりいられない” と、書いたばかりでした。 

【116】「湖東記念病院事件」検察“有罪立証断念”の狙いとは? - Free大助!ノーモア冤罪!

 本当に、ハッピーエンドどころではありません。

滋賀県警は「コメントは差し控える」などと開き直っているようですが、捜査の過ちを検証して、以下の2つのポイントを明らかにしろ!と言いたいです。

  • ①なぜ「自然死」でなく「殺人事件」として捜査したのか?
  • ②なぜ、無実を示す証拠を検察に提出しなかったのか?

 とりわけ深刻なのは②です。基本に立ち返って刑事裁判の流れを簡単に説明すると、こんな感じになります。

  • Step1 警察が捜査を行い、集めた「証拠」にもとづいて容疑者を逮捕。
  • Step2 警察が集めた「証拠」は検察に提出される。

 ※「証拠」の中には、容疑者が無実(犯人でない)の可能性を示すものも含まれる。 

  • Step3 検察は「証拠」をもとに「起訴」するか「不起訴」にするかを決める。
  • Step4 「起訴」した場合、容疑者は「被告人」として裁判にかけられる。
  • Step5  裁判所は検察の「起訴内容」と「証拠」をもとに、被告人が「有罪」か「無罪」かを決める。

この5つのステップが正常に機能していれば、冤罪のリスクはかなり軽減されるハズです。しかし実際はそうなっていないため、 冤罪が多発しています。

とくに問題になのが、検察による “証拠隠し”。Step4 の段階で検察が無実の可能性を示す証拠を隠してしまい、裁判に出さないのです。これにより、本来は「無罪」となるべき事案が「有罪」になってしまうわけです。

現在の日本の刑事司法において、これを規制するルールは明文化されていません。よく “検察の手持ち証拠の全面開示を!” と叫ばれるのは、検察の証拠隠しをNGにするルールを作れ!ということを意味しています。

しかし今回明らかになった「湖東記念病院事件」のケースは、それ以前の問題です。警察から検察に提出されているべき証拠が、警察に眠っていたままになっていたのです。しかも今年の7月まで。

もしこれが最初の段階で提出されていたら、西山さんは起訴されることも、裁判にかけられることもなかったかもしれません。西山さんは23歳で逮捕され、37歳まで刑務所に収監され、現在は39歳に。この失われた時間を、滋賀県警はどう償うのか…?

 ◆重要な証拠を警察が隠しているのは“よくあること”

 一口に「証拠」と言っても、いろいろあります。

  • DNAや指紋、血液型といった科学鑑定
  • “怪しい人を見た” という目撃証言
  • 防犯カメラの映像
  • 捜査の過程をまとめた捜査報告書
  • 容疑者や関係者の供述調書など

私は刑事司法の専門家ではないので、もっと正しい分類があるかもしれませんが、大体こんなイメージで間違いないと思います。

 そして今回の「湖東記念病院事件」のように、警察から検察に証拠が提出されないケースがどのぐらいあるのでしょうか? 

調べる術がないので、具体的に “何%ぐらい” と言うことはできませんが、“かなりあるのではないか?” と述べるのは、今村核弁護士。今村弁護士は、冤罪が疑われる事件の弁護を数多く引き受け、多くの無罪判決を勝ち取ってきました。

そう活躍ぶりはNHKでも放送されたので、覚えている方も多いと思います。

www.nhk.or.jp

ちなみに 今年3月まで日本テレビで放送されたドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』も、今村弁護士がモデルになっています。

 ちょうど先週末、今村弁護士の講演を聴く機会がありました。今村弁護士が担当したなかにも、無実の証拠を警察が隠し持っていた事件があったそうです。

そして講演終了後、こうしたケースが多々あるのかを質問したところ、このように答えられました。

 多々あると思います。とくに物証なんかそうですね。保管場所がないのか、警察署に置いたままになっているというのが多々あります。

では法制的にどうなっているのかといいますと、全部の証拠を検察に送付する義務があるかという論点で、検察庁自体が全てを送付する義務があるという解釈をしていない。こうした問題があります。

どうでしょうか? 刑事訴訟法では“すみやかに”送らなければならないとされているルールが、全く守られていない。

本当に恐ろしいですね。こんなことを放置しておいたら「湖東記念病院」のような蛮行が、これからも際限なく繰り返されるでしょう。

「日常に潜む冤罪の危険」をテーマに講演する、今村核弁護士。日本国民救援会・足立支部大会にて。

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【117】11年前の今日、冤罪「飯塚事件」久間三千年さんの死刑が執行されました

◆“10.28”を絶対に風化させるな!

仕事の合間に、ブログを更新しています。どうしても今日の早いうちに、書いておきたいことがあるからです。

今日、10月28日は「飯塚事件」の死刑が執行された日です。ちょうど11年前(2008年)、福岡拘置所久間三千年(くまみちとし)さんが殺されました。

一環して無実を訴えた末の処刑でした。刑場へ赴くときの久間さんは一体何を想い、どんな様子だったのか…? 想像するだけで胸が締め付けられます。

飯塚事件」の概要と冤罪のポイントについては、以前の記事を参照ください。

【100】乳腺外科医の無罪判決と「北陵クリニック」「飯塚事件」 - Free大助!ノーモア冤罪!

現在は再審を目指して、久間さんのご遺族と弁護団が奮闘しています。

〈事件発生〜死刑確定〉

  • 1992年2月20日 福岡県飯塚市で登校途中の小学1年生の女児2名が行方不明
  • 1992年2月21日 同県甘木市(現・朝倉市)の崖下で2女児の遺体発見
  • 1994年9月23日 久間さん逮捕、66日間の取調べで、一度も自白せず
  • 1995年2月20日 福岡地裁、第1回公判。久間さんは全面否認
  • 1999年9月29日 福岡地裁(第一審)死刑判決
  • ※徳田靖之弁護士が弁護人に加わる
  • 2001年10月10日 福岡高裁(第二審=控訴審)死刑判決
  • 2006年9月8日 最高裁(第三審=上告審)死刑確定
  • 2008年10月28日 死刑執行

〈再審請求〜現在〉

この通り、地裁、高裁で再審請求が退けられ、現在は最後の望みをかけて最高裁で闘っています。守大助さんの「北陵クリニック事件」と同じ状況です。「北陵クリニック事件」も2018年2月、仙台高裁で即時抗告が棄却されました。まさに時期を同じくして、最高裁での闘いにのぞんでいるわけです。

◆生命続くかぎり闘う…徳田靖之弁護士のお話

10月はじめに「飯塚事件弁護団共同代表を務める徳田靖之弁護士の講演を聴きました。徳田弁護士は、まさに身を削る想いで、久間さんの無念を晴らすべく再審を目指して闘っています。約1時間の講演内容は本当に衝撃的で、胸が詰まるものでした。今回はその一部、死刑が執行された時のお話を紹介します。

※文章はメモを基に作成しています。文責はブログ執筆者の私にあります。

最高裁で上告が棄却されて死刑が確定した後、福岡拘置所に久間さんに面会に行きました。ここで “弁護士を全面的に信頼しています” と、久間さんから再審を依頼された。それが2006年の9月のことでした。

その時点で私は、再審事件の弁護の経験がありませんでした。まったくはじめてのことです。そこで自分なりに法律の教科書をひもとき、あるいは再審事件をやられた弁護士の資料を読む中で、有罪となった事実を覆すに足りる明らかな新証拠を見つけないと、再審請求をできないことを知った。それを必死になって探しました。

そうするうちに、2年という年月が経過してしまいました。

そこで私は主任弁護人と一緒に福岡拘置所を訪ねて、久間さんに死刑確定から2年が経過したのですが、私たちの準備ができていない。何とかして有力な新証拠を見つけたいと思っているのだけれども…という話をしました。

久間さんは獄中でいろんな資料を調べて、日本全国で死刑囚がどれぐらいいるかというリストを作っていた。そして “弁護士さん安心してください。私より先に死刑が確定している人がまだ20人近くいるので、私の順番が回って来るにはまだ時間がある。だからゆっくり構えて、しっかりした新証拠を出してください” と、逆に私を励ましてくれた。

その1ヵ月後、マスコミの記者から法務省が会見を開くという連絡が入りました。“法務大臣が会見で死刑執行を発表するようですが、徳田さんに何か連絡は来てますか?” というんです。 

“いいえ何も来ていません”と、びっくりして久間さんの親族にも電話をしたら、やはり連絡は来ていないと。そして午後になって、同じ記者から久間さんの死刑執行の発表だったと言われた。

法務省は、久間さんが再審請求の準備をしているということを十分に知った上で、死刑を執行しました。もっと早く再審請求をしていれば…私たちの怠慢が、執行を許してしまったと思わざるを得ませんでした。

死刑が確定している人は、国によって命を奪われるという崖っぷちに立たされていることを、蔑ろにしてしまった。これは弁護人として、やってはならない過ちです。

本当に、いたたまれない気持ちしかありません。そんな私たちに、久間さんのご遺族は “亡くなった主人は先生方を本当に信頼していました。ですから無念を晴らすためにも再審請求をして欲しい” と、助け舟を出してくださいました。 

この後、徳田弁護士は冤罪のポイントを丁寧に掘り下げ、 “生命が続く限り、久間さんの無念を晴らすために闘う” という決意で、講演を締めくくりました。この続きは改めて、じっくり書きたいと思います。 

面会から1ヵ月後の、まさかの死刑執行。“モタモタせずに再審請求をしていれば、死刑執行は阻止できたかもしれない” という無念の想いがどれほど重いものか…私にはちょっと想像が付きません。「飯塚事件」の雪冤、絶対に果たして欲しいです。(記事は写真の下に続きます)

徳田靖之弁護士。10月6日、カトリック清瀬協会で行われた公開学習会「死刑とえん罪」で。

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◆久間さんの死刑執行に秘められた法務省の狙い

改めて振り返ると、久間さんの死刑が確定したのが2006年9月で、執行が2008年10月。通常、死刑の確定から執行までは3年〜6年ぐらい、10年以上執行されないケースもあります。確定から “たった2年” の執行は、本当に異例なことです。

なぜこんなことになったのか…? 推測されるのが「足利事件」の存在です。この事件は、1990年に栃木県で発生した幼女誘拐殺人事件。翌年に幼稚園バスの運転手だった菅家利和さんが逮捕され、無為懲役が確定します。

菅家さんを犯人とした根拠は、DNA鑑定でした。しかし2000年代に入ると鑑定技術は飛躍的な進化をとげ、1990年代当時の鑑定方法は精度が低く、信用に値しないことが明らかになります。

そこで2009年、菅家さんのDNAを再鑑定したところ、犯人でないことが明白に。これが決めてとなって2010年に再審無罪を勝ち取りました。足利事件は、世の中が「冤罪」や「再審」に注目するターニングポイントとなった事件でもあります。

そして「飯塚事件」で久間さんを犯人としたのも、足利事件と同一の「MCT118型」と呼ばれる鑑定方法。しかも鑑定を行った時期、鑑定人まで同じだったといいます。このため “東の足利、西の飯塚” などと、称されることもあります。

久間さんの死刑が執行されたのは、まさに足利事件の再審に向けて、DNA再鑑定が行われようとしていた時期でした。

“似たような事件が2つも立て続けに再審無罪になったら、司法のメンツが丸つぶれだ…”。恐らく法務省はこのように考えて、久間さんの死刑執行を急いだのでしょう。しかも足利事件無期懲役に対して「飯塚事件」は死刑事件。死刑制度を維持したい国として、冤罪の発覚を隠そうという狙いもあったのだと思います。

久間さんの死刑執行に関わった当時の法務官僚の現在は、ライターの片岡健さんが追跡取材しています。ぜひ、こちらのリンクをお読みください。

www.data-max.co.jp

一番下の写真は、片岡さんの著書『絶望の牢獄から無実を叫ぶ』鹿砦社から抜粋した、久間さんの死刑執行にあたって作成された文書の一部です。どんな経緯で、どんな意思決定の下で久間さんの命が奪われたのか?肝心の部分は黒塗りにされています。

まさに日本の司法は “ブラック司法”。この真っ黒の下に隠された真相に光をあてるためにも、絶対に「飯塚事件」の再審は実現しなきゃならないんです。

少し長くなりましたが、今回は以上です。これからも出来るかぎり書いていきますので、引き続き読んでいただけると嬉しいです。

飯塚事件」をはじめ、8つの死刑冤罪を紹介。

 

国家権力は1人の無実の人間の生命をどのように奪ったのか?その真相を黒塗りにして開示する姿勢を、許していいのか!!

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【116】「湖東記念病院事件」検察“有罪立証断念”の狙いとは?

ご無沙汰しています。2ヵ月も更新をサボっていた間に、冤罪を巡るいろいろな出来事がありました。書きたいことも沢山あります。また更新していきますので、よろしくお願いいたします!

そして更新をサボっていたにも関わらず、今月のPVが1000を突破しました。本当に読んでいただき、ありがとうございます!

◆ようやく無罪!西山美香さん、お疲れ様でした!

ニュースでご存知と思いますが、このブログでも何度か紹介してきた西山美香さんの「湖東記念病院事件」の無罪が、ようやく確定する見通しです。

事件の概要や、これまでの経過については、以前の記事をご参照ください。

【104】やったぞ!!湖東記念病院事件、再審開始 - Free大助!ノーモア冤罪!

この事件、2017年12月に大阪高裁が再審開始を決定しました。しかし例によって検察が特別抗告(怒)し、審理は最高裁へ。“もしここで再審が取り消されてしまったら…”という予断を許さない状況が1年以上続きました。
しかし今年の3月19日、最高裁は検察の言いがかりを退けて一安心。間もなく大津地裁で再審公判が開かれ、無罪がほぼ確実という見通しになりました。

この間の最高裁要請で、私は何度か西山さんと顔を合わせました。西山さんはアルバイトのスケジュールをやり繰りしながら、滋賀県から東京の最高裁に足を運び、以下のような想いを切々と訴えていました。

2017年12月20日に大阪高裁で再審開始決定が出たことは、とても嬉しく、感謝の気持ちでいっぱいです。しかし5日後に検察が特別抗告をしたため、最高裁での闘いを強いられています。そのために、とても不安な毎日を過ごしています。どうか宜しくお願いいたします。

 そして自分の要請が終わった後は “他の冤罪事件のことも考えて欲しい。お願いします”  と、必ず一言添えていました。自分のことだけでも大変なハズなのに、他の冤罪仲間のことも気にかけている…。横で聴いていて涙が出そうになりました。本当に頭が下がる想いです。

事件発生(2003年)当時23歳だった西山さんは、無実を訴えたまま12年の刑務所暮らしを余儀なくされ、現在は39歳に。長い闘い、本当にお疲れさまでした!

◆検察はまず、謝罪するのが筋ではないか!

 検察は当初、再審公判においても “あくまでも西山さんは有罪だ!” と、争う方針でした。ところがここに来て突然方針を転換。“有罪立証しない” としてきました。これにより、ここ2〜3日の間に報道されている “無罪確実” につながったわけです。

報道によると、大津地方検察庁高橋和人・次席検事はこう述べています。

有罪のための新たな立証はせず、確定審などで取り調べられた証拠などに基づき、裁判所に適切な判断を求めることとした。

事実上の検察の白旗…。検察がギブアップしたことで、西山さんの無罪が迅速に確定するのは、本当に嬉しいことです。改めて、西山さんには “お疲れ様でした” と伝えたい。

しかし…これでハッピーエンド!としていいのか? 答えはNo!です。

まず検察は、真っ先に西山さんに頭を下げて謝罪すべきです!

一体どのツラを引っさげて “裁判所に適切な判断を求めることとした” などと、他人事のようなコメントを発するのか? このブログでも幾度となく指摘してきましたが、日本の刑事司法を劣化させている元凶の一因は、間違いなく検察にあります。こんな連中に “正義” を担わせておいて良いのか? 私たち1人ひとりが問われています。

◆検察が“有罪立証”を断念した本当の理由

どうして検察は “有罪立証しない” 方針に転換したのか? 西山さんとともに闘ってきた井戸謙一・弁護団長が、興味深い指摘をしています。

「検察側は(証人尋問などで)捜査の問題が明らかになるのを避けたかったようだ」産經新聞より)

おそらくこれが真の理由でしょう。検察は決して、冤罪をつくってしまったことを反省して有罪立証を断念したわけではありません。

ここでいう “捜査の問題” とは、警察(滋賀県警) による違法捜査のこと。西山さんを犯人と決めつけて強引な捜査を行った捜査課・山本誠・刑事らの、汚いやり口が法廷で明らかにされるのを避けたかったのでしょう。

山本刑事は、取調室で亡くなった患者さんの写真を見せて “この写真を見て、何も思わないのか!” “なめてたらあかんぞ!” などと怒鳴り散らし、西山さんが座っていた椅子を蹴飛ばしたといいます。

西山さんは恐怖から逃れたい一心で “人工呼吸器のチューブを外した” という、警察がデッチ上げた犯行のシナリオに沿った供述を行います。すると突然、山本刑事は “自分を信じろ、悪いようにはしない” と優しくなり、ケーキの差し入れまでしてくれたといいます。こうして警察の意に沿った、自白調書が作り上げられていきました。

 西山さんは、軽い「発達障がい」と「知的障がい」を持っています。いわゆる供述弱者です。これは本人も公表していることです。山本刑事はそれを承知の上で、ある時は “怖い人” を、ある時は “優しい男” を演じ分けながら、自白を迫っていったのです。

山本刑事の蛮行および現在については、ライターの片岡健さんが追跡取材をしています。こちらのリンクをご一読ください。

再審開始の湖東記念病院事件 県警の捜査資料から新たな疑惑(後):データ・マックス NETIB-NEWS

 リンクの記事の通り山本刑事は出世し、滋賀県警・長浜署の刑事課長に。こんな刑事課長の号令の下で捜査が行われれば、さらに冤罪が量産されるのは明白です。「湖東記念病院事件」が無罪になったからと言って、良かったね!では済まされないんです。

◆警察をかばい、冤罪デッチ上げ捜査の隠蔽に奔走する検察

検察は本来、警察を指導し、山本刑事が行ったような蛮行を正す立場にあるはず。しかし実態は真逆のようです。

この10月に発行されたばかりの『冤罪白書2019』燦燈出版で、元・検察官の市川寛・弁護士が興味深いことを語っています。一部を抜粋して紹介します。

刑事訴訟法上、検察官は警察に対し、指揮権がどうのこうのと条文には書いてあるのですが、実務的には全くそうではなく、どうかすると警察の方が立場が強いのです。

とくに小規模な地方の、検事が少ない検察庁に行くと、昨日だか一昨日司法試験に受かったような若造の検事が、20年、30年やっているベテランの刑事に指示をするということは、よほどその検事の芯が強かったり、本当に的確な指示をしていないと警察に反発されたり、なめられる実情があります。

そういう意味で、日頃から警察からの暗黙というか、間接的な意味の突き上げみたいなものを感じているので、検事はややもすると警察を守ろうとする。

実態としては警察のやっていることをむしろ追認する、あるいは警察のやっているまずいことをうまくごまかす工夫をするのが検察官になっているような、法が定める双方の立場が逆転しかねないような運用になっていると言わざるを得ないのです。(8〜9ページより)

どうでしょうか? 私は市川さんご本人から、こんなエピソードも聴いたことがあります。

大阪地検にいたとき、不起訴にした案件に対して、大阪府警の刑事が “勉強させてもらいましょうか!” と、ヤクザ顔負けの剣幕で怒鳴り込んできたことがあった。

大阪府警の暴力的な取り調べは、度々問題になっています。このときも、さぞやスゴい迫力だったでしょう。

さまざまな冤罪事件を見る度に、こんないい加減なデッチ上げ捜査が明白な事件を、なぜ検察は起訴したんだろう?と感じるケースが多々ありました。その背景には、検察と警察のこんな関係があったのです。

 市川さんの経歴や人なりについては、書き始めると長くなるので、こちらの著書をお読みください。

さて、まとめに入りますが、冤罪が起きる構図は明白です。

警察によるデッチ上げ捜査→それを検察が追認→裁判所もスルー。

守大助さんの「北陵クリニック事件」をはじめ、多くの冤罪事件がこうして生み出されています。こんなバカなことを止めさせるには、やはり主権者である私たち国民が声を上げるしかありません。本当に何とかしましょう。

 

中日新聞」(10月23日)より。ホッと笑顔の西山美香さんと、井戸謙一・弁護団長。 

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