Free大助!ノーモア冤罪!

「北陵クリニック事件・無実の守大助さんを守る東京の会」事務局長の備忘録〜素人の素朴な目線から冤罪を考える〜

【107】48歳になった守大助さん

1ヵ月ぶりの更新です。いろいろと書きたいことが頭の中を巡りながら、体が追いつかずにズルズルと時間が過ぎてしまいました。

元号が「平成」から「令和」に変わりましたが、守大助さんは変わらずに千葉刑務所の塀の中4月28日には48歳の誕生日を迎えました。2001年1月に逮捕された時は29歳。再審無罪に向けた闘いは続きます。

少し遅くなりましたが、4月に届いた大助さんのメッセージを紹介します。弁護団を通して全国の支援者に届けられたものです。

◆守大助さんのメッセージ〜私は一度も「公正な裁判」を受けていません〜

いつも全国から温かく力強い!ご支援、有り難うございます。皆さんから届くお便りに、とても励まされています。私は絶対にやっていない! 筋弛緩剤を混入していません!! 平成最後の月も、負けずに無実を訴え闘います。

お花見のシーズンとなり、ここかしこを吹く風も桜色に染まって見える季節です。私にも一日も早く本当の“春”が来てほしい。

無実を訴えつづけ、18年が過ぎました。真実の証拠を無視しつづける裁判所へ、怒りでいっぱいです。なぜ裁判官は!無実の声を、無実の証拠を無視してまで、検察を守るのか。私は一度も「公正な裁判」を受けていません。証拠開示、証人尋問も認められていないのです。裁判に“差”があっていいのでしょうか!!

本件は筋弛緩剤事件ではありません。土橋(つちはし)鑑定は明らかに間違いであり、科学の世界では認められていない鑑定です。5人の患者さんは主治医によって、ちゃんと診断されています!! A子ちゃんを「筋弛緩剤」しかないとした仙台市立病院が「ミトコンドリア病」についての症例報告を出しました。A子ちゃんの症状、経過がほぼ一致しています。筋弛緩剤じゃないことが明らかにしたようなものです。

第三章法廷・林裁判長へ「再審」の風を吹かせて下さい。今後もどうか皆さんのお力を貸して下さい。

2019.4月 無実の守大助

 

◆守大助さんの3篇の詩

このブログでも何回か紹介していますが、大助さんは塀の中でたくさんの詩を書いています。今回はその中から、誕生日にまつわる3篇を紹介します。

守大助詩文集「僕は無実です」(日本聖公会東京教区 人権委員会・編)より。

 

「41」

とうとう41歳になった

社会から隔離されて

12回目のBirthday

あと何回ここで迎えるのか

41歳は“元祖天才バカボンのパパ”

バパボンのパパと同じになった

なぜここで迎えるのか

42歳は外で迎えたい

41歳の春はスタートした (2012年4月28日)

 

 「42歳」

今日で僕は42歳

こんな生活をしていなければ

家庭を持って

父親としてがんばっていただろう

29歳で閉じ込められ

30代は悪いことばかり

40代は社会で生活できると

信じている。

早くここから出たい

42歳の僕は家庭を持つこともできず ここにいます

悔しい悔しいBirthdzy (2013年4月28日)

 

 「45歳」

また春が来る

ひとつ年が増える

15年はあっという間

刑事裁判は三流小説

嘘が真実になる世界

気がつけば45歳

信じられない速さで

月日は流れる

再審は無実の人を救うのではないのか

45歳の春も信じて訴える (2016年4月)

 

 

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【106】ブログをはじめて2年、「冤罪支援」をメジャーに!!

■冤罪について語るハードルを低くしたい

このブログをはじめたのは2017年4月4日。何とか2年、続けてこられました。

1日最大400を超えるアクセスをいただいた日もありました。読んでいただいて、本当にありがとうございます!! 

この間の「北陵クリニック事件」を巡る最大の出来事といえば、やはり仙台高裁で再審請求が棄却されたこと(2018年2月28日)でしょう。

この事件、医療や薬物鑑定の専門家に聴き取りを行えば、守大助さんの無実は明白です。そして検察が隠し持っているハズの証拠が全て開示されれば、警察のイイカゲンな捜査によって大助さんが “恐怖の点滴魔” にデッチ上げられたことも明らかになるでしょう。

しかし仙台高裁は一切の事実調べも証拠開示も拒んだまま、再審請求を棄却しました。こんなことをしてまで、警察・検察のメンツを守りたいのでしょうか?1人の人間のかけがえのない人生を、何だと思っているのでしょうか?

再審無罪を求める闘いは、私の地元・東京にある最高裁判所に移りました。

このブログを始めたのは、日本の司法が抱える問題について、もっと気軽に語り合えるようにしたいと思ったからです。「素人の素朴な目線から冤罪を考える」というサブタイトルも、そんな想いから考えました。

冤罪関連の記事といえば、弁護士やジャーナリストが書いたものがほとんど。でも冤罪や司法というのは、私たちの暮らしに直結した問題。だからこそ生活者である私たち自身がもっと考えて、語り合って、思ったことを発信しなきゃいけないと思います。

日本の司法を巡る状況は、かなり絶望的です。こんな状況を放置しておいたら、誰がいつどこで、凶悪事件の犯人にデッチ上げられるか分かりません。守大助さんの身に起きたことは、決して他人事ではないのです。見て見ぬフリなど、できません。

このブログもどういうふうに書けば伝わるのか、正直言ってまだ模索中です。でも試行錯誤しながらも、書くことだけは止めないようにします。

■ラジオ「塀の中の白い花」で喋ってきました

コミュニティラジオ「エフエムたちかわ」で「塀の中の白い花〜ほんとに何もやってません」という番組があります。おそらく日本で唯一の冤罪専門番組で、コンセプトをこのように語っています。

“冤罪は誰の身にも起こる身近な問題。『塀の中の白い花~ほんとに何もやってません』は「暗い」「重たい」というイメージの冤罪問題を分かりやすく伝えていきます。”

私のブログと同じ想いです…というわけで、はじめてゲストに呼んでいただき「北陵クリニック事件」について喋ってきました。実は4月1日に放送されてしまったのですが、現在も下記の番組HPから聴くことができます。

enzaibusters.seesaa.net

「エフエムたちかわ」のHPも紹介します。

www.fm844.co.jp

番組を作っているのは、ミュージシャンのなつし聡さん。「布川事件」の桜井昌司さんとの出会いがきっかけで冤罪に関心を持ち、番組を始めたそうです。

収録は都内の小さな音楽スタジオで、機材は録音機能の付いたマイク1台。なつしさんがパーソナリティから編集まで、全てを1人でこなしています。さらに資金をクラウドファンディングで募り、1年の放送延長が決まりました。

今は個人がメディアを持てる時代。やる気と行動力で、何でもできるんだ!と、本当に勇気づけられました。私も引き続き、1人でお多くの皆さまにこの問題を身近に感じていただけるよう、頑張ります。

収録を終えて。なつし聡さん(左)、ありがとうございました。

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【105】「松橋事件」再審無罪、あまりにも遅すぎた春…

■34年目にして、ようやく無罪

ご存知の通り本日、熊本地方裁判所は「松橋(まつばせ)事件」の再審裁判において、無罪判決。宮田浩喜(こうき)さんはようやく、冤罪を晴らすことができました。

本当に良かった!!と声を大にして言いたいところですが、それ以上にあまりにも遅すぎた…というのが正直な感想です。

宮田さん自身は脳梗塞になった上、認知症を患って寝たきりに。意思の疎通が難しい状態といいます。

そして宮田さんを支え、ともに再審を闘ってきたご長男は2017年9月、病気で亡くなりました。どれほど無念だったことでしょうか…。2016年6月の再審開始決定を受け、ご長男が新聞記者に語ったコメントを今一度、紹介します。

 「捜査に当たった警察、検察の関係者も、父と同じ期間を刑務所で過ごしてほしい。そうでなければ冤罪はなくならない(2016年7月1日/毎日新聞

1985年1月の事件発生から34年、あまりにも遅すぎた春と言わざるを得ません。ちなみに1985年といえば、8月に日本航空123便が墜落した年でもあります。本当に長い闘いでした。

■検察が再審を妨害できない制度づくりを!!

松橋事件の再審の流れを、もう一度振り返ってみます。

  • 2012年3月 熊本地裁に再審請求
  • 2016年6月 熊本地裁、再審開始決定→検察は即時抗告※(怒)
  • 2017年11月 福岡高裁、再審開始決定を支持→検察は特別抗告※(怒)
  • 2018年10月 最高裁、再審開始決定を支持→ようやく熊本地裁で再審公判へ
  • 2019年3月28日 熊本地裁、無罪判決
  • ※即時抗告=地裁の決定を不服として高裁に抗告すること。
  • ※特別抗告=高裁での決定を不服として最高裁に抗告すること。

再審請求から6年以上、最初の再審開始決定から3年近くもの歳月がかかった理由は一目瞭然。裁判所が開始決定を出すごとに、検察が無意味な抵抗を繰り返してきたことです。

このブログでも検察の愚行・蛮行については繰り返し書いてきました。再審に関する規定を見直して、検察の抗告をできない制度に改めなければなりません。幸いにも近年は、そうした機運も盛り上がってきました。今がチャンス、私たちの手で絶対に日本のアホ司法を変えましょう!!

■「松橋事件」アーカイブ、まとめました

このブログを開設してから、一番アクセスが多かったのが「松橋事件」関係でした。本家である守大助さんの「北陵クリニック事件」以上に。本当に読んでいただいてありがとうございます。

ということで、今までにアップした「松橋事件」関連の記事を以下にまとめました。リンクからご覧いただけます。

daisuke0428.hatenablog.com

daisuke0428.hatenablog.com

daisuke0428.hatenablog.com

daisuke0428.hatenablog.com

daisuke0428.hatenablog.com

daisuke0428.hatenablog.com

 

【104】やったぞ!!湖東記念病院事件、再審開始

西山美香さん、本当に良かった!!

すでに報道でご存知と思いますが昨日(3月19日)、最高裁判所は「湖東記念病院事件」の再審開始を決定しました。

この事件、2017年12月に大阪高裁が再審を認めたものの、検察がお決まりの特別抗告(怒)。検察の言いがかりを退けての開始決定、本当に良かった!!と思います。

西山美香さんとは、最高裁要請で度々顔を合わせました。西山さんは仕事をやりくりし、滋賀県から東京まで足を運んでいました。なかなか再審が決まらず日常に戻れなかった1年3ヵ月、本当に不安だったと思います。そして自分の要請が終わった後に「他の事件のことも考えて欲しい。宜しくお願いいたします」と一言添えて、最高裁で共に闘う冤罪仲間への気遣いも忘れませんでした。自分のことだけでも大変なのに、本当に胸を打たれました。

その時の様子は、下記リンクをご覧ください。

daisuke0428.hatenablog.com

■守大助さんの「北陵クリニック事件」との共通点

「湖東記念病院事件」は医療現場の出来事を、医療知識に乏しい警察・検察が「殺人事件」にしてしまった典型的な冤罪。守大助さんの「北陵クリニック事件」ソックリです。

発端は、70代の重篤の患者さんが亡くなったことでした。致死性不静脈による病死の可能性が高かったのですが、警察は “殺人事件” と見立てて捜査を開始。看護助手の西山美香さんを厳しく取り調べます。そして “人工呼吸器のチューブを抜いて殺害した” という、 自分たちが勝手に描いたシナリオに沿った自白を強要します。

「北陵クリニック事件」では、病気や抗生物質による患者さんの急変が “筋弛緩剤を使った連続殺人” にされました。医療施設には元々具合の悪い患者さんが入院しているわけですから、死亡や急変は珍しくないこと。しかし警察の勝手な思い込みが、そもそも存在しない事件をデッチ上げてしまったのです。

“事件でなく病死の可能性が高い” ことをシッカリ認めたという意味で「湖東記念病院事件」の再審開始決定は画期的です。守大助さんの再審開始にもつながる、大きな一歩になると思います。

■一部の心ない中傷へ一言

 一部ですが、ネットでは西山さんに対する心ない中傷が見られます。“取調べの刑事に好意を抱いて自白した” ことを、信じられない、自業自得だというのです。これにはキッチリと反論しておきたいと思います。

山本誠なる刑事は脅迫的な取調べをする一方で、意に沿った自白をすると急に優しくなったといいます。「自分を信じろ。悪いようにはしない」とも言ったそうです。

実は西山さんの他にもう1人、患者さんが亡くなった現場に立ち会った看護師も取調べを受けていました。その看護師には家庭がありました。精神的に追いつめられ自暴自棄になった西山さんは独身の自分が責任を引き受ければいいと、刑事に言われるままに自白をしてしまったのです。

外の情報を一切シャットアウトされた取調室。刑事と2人だけの狭い空間で、来る日も来る日も自白を迫られたら、普通の精神状態を保っていられるでしょうか。

さらに西山さんは迎合性が強い性格だったといいます。“この刑事さんのために自白しなきゃ” と思えてしまっても無理はありません。そんなことあるの?と思うかもしれませんが、供述心理学的に見てもあり得ることなのです。

守大助さんも、清水弘之なる刑事に “お前がやってないと否認を続けるなら、彼女が犯人だな” と、婚約者だった同僚看護士の名前を出されて一度は自白してしまいます。

一番弱い所に付け込んで自白を迫るのは、警察の取り調べの常套手段。果たして自分が同じ状況で追いつめられたら、毅然とした態度を貫けるでしょうか? 責めるべきは西山さんでなく、山本刑事です。

そして山本誠刑事、清水弘之刑事ともに現在も警察にいるようです。警察の思い込みと、自白させればいいという取り調べがいかに多くの冤罪を生んでいるか、引き続き声を大にして伝えていきます。

 

西山美香さん(左)。2017年12月、大阪高裁の再審開始決定直後。右は東住吉事件で再審無罪を勝ち取った青木恵子さん。(写真:日本国民救援会) 

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【103】沈黙の最高裁〜「大崎事件」弁護団激励行動に参加して〜

■事件から40年、92歳になる原口アヤ子さんの命あるうちに再審無罪を!!

現在、最高裁判所最高裁)では「日本国民救援会」が支援する5つの冤罪事件が、無罪獲得を目指して闘っています。

  • 守大助さんの「北陵クリニック事件」(再審)
  • 原口アヤ子さんの「大崎事件」(再審)
  • 袴田巖さんの「袴田事件」(再審)
  • 西山美香さんの「湖東記念病院事件」(再審)
  • 勝又拓也さんの「今市事件」(通常審)

※救援会が関わっていない「飯塚事件」や「恵庭OL事件」なども含めると、さらに多くの冤罪事件が最高裁に係属している。

昨日(3月15日)は「大崎事件」の弁護団が一刻も早い再審開始を要請するため、鹿児島から上京。最高裁前には支援者が集まり、要請に入る弁護団を激励しました。冤罪を闘うには、当事者・弁護団・支援者のチームワークが重要なカギになります。弁護団を励ますことも、大切な活動なのです。

「大崎事件」はこれまで2度の再審請求が棄却され、3度目にしてようやく再審開始への展望が開けてきました。昨年3月、福岡高裁は異例の早さで再審開始を決定。しかし検察が特別抗告したため、審理が最高裁へ移って1年が経とうとしています。

まさにもう一歩…という状況の中、最高裁は検察の抗告を退けて速やかに再審開始決定を出すべきなのに、ひたすら沈黙を守り続けています。

今年で事件発生から40年、原口アヤ子さんは一貫して無実を訴え続けて間もなく92歳に。現在は体調を崩し、施設で命を削りながら再審無罪を待ち望んでいます。まさに時間との闘い。“命あるうちに” という想いを直接伝えるべく、弁護団が緊急要請書をたずさえ、鹿児島からやって来たのです。

 森雅美・弁護団長が要請に先立ち、最高裁前で原口アヤ子さんの一刻も早い再審開始を訴える。垂れ幕を持つのが集まった支援者。

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 ■“ひとりの人として”裁判官に向き合ってほしい

要請終了後の記者会見で、弁護団の鴨志田祐美・事務局長はこのように訴えました。

「裁判体としてでなく、裁判官1人ひとりに“人として”この事件に向き合ってほしい。そういう想いで要請書を提出しました」

そのため要請書の宛名は単に「最高裁判所第一小法廷」とするのでなく、5人の裁判官と1人の調査官の名前も添えたといいます。

 しかし鹿児島からはるばる足を運んだ弁護団に対する最高裁の対応は、そっけないものでした。受付で事務職員が事件番号を確認し、要請書を受け取っただけだったそうです。最高裁が何を考えているのかは、完全にブラックボックスのまま…。私もまったく同じことを感じており、以前書きました。

【83】最高裁は誰のために…? - Free大助!ノーモア冤罪!

こんな最高裁、何とかして変えなければなりません。それが民主主義国家に生きる私たちの責任ですから。

5人の裁判官と1人の調査官の名前が添えられた緊急要請書。A4サイズ1枚の簡潔な書面だが、この重要さを最高裁はどこまで理解するのか。

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記者会見での鴨志田祐美・弁護団事務局長。右は森雅美・弁護団長、左は映画監督の周防正行さん。周防さんは大崎事件を支援しており「もうこれ以上、裁判所に絶望させないでほしい」と語った。

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 ■そもそも「大崎事件」って?「北陵クリニック事件」との共通点

ここからは大崎事件の概要とこれまでの経過について、書いてみたいと思います。

よく東京ではJR山手線の「大崎」と間違えられますが、事件があったのは鹿児島・大隅半島の大崎町です。

1979年10月15日、住宅横の牛小屋から男性の遺体が発見されました。男性は亡くなる寸前、酒に酔ったまま自転車に乗って農道の側溝に転落。起き上がることができず、近隣の住人によって自宅に運ばれていました。

男性は自転車で転倒した際の打ち所が悪くて亡くなった可能性が高いのですが、捜査を行った志布志警察署はそうは受け取りませんでした。 男性の義姉の原口アヤ子さんが日頃から酒癖の悪い男性への恨みを募らせ、3人の親族に命じて殺害を実行した…というストーリーをデッチ上げて逮捕します。

守大助さんの「北陵クリニック事件」にソックリです。大助さんの事件も、病気や抗生物質による急変を “筋弛緩剤による連続殺人” と、宮城県警が思い込んだのがはじまりでした。単なる事故が捜査機関の思い込みによって事件にされてしまうのは、冤罪の典型的なパターンです。

知的障害のあった3人の親族は、強引な取調べに屈して警察が考えるストーリー通りに自白。アヤ子さんだけが一貫して無実を訴え続けます。この事件、アヤ子さんらが共謀して犯行を行ったことを示す証拠は、何一つありません。あるのは脅迫的な取調べで得られた、3人の自白だけ。

しかし裁判で懲役10年が確定し、アヤ子さんは麓刑務所(佐賀県)へ。刑務所では “罪を認めて反省の意思を示せば仮出所できる” という誘いもありました。しかしアヤ子さんは “あたいはやっちょらん!!” と、断固として拒否。10年の刑期を満期でつとめあげ、出所後に再審請求を行います。

■これまでに3度もの再審開始決定

〈第1次再審請求〉

  • 1995年4月 原口アヤ子さんが再審請求
  • 2002年3月 鹿児島地裁、再審開始決定→しかし検察が即時抗告(怒)
  • 2004年12月 福岡高裁宮崎支部、検察の即時抗告を受け再審開始決定を取消
  • 2006年1月 最高裁も取消を支持、再審開始ならず

〈第2次再審請求〉

〈第3次再審請求〉

  • 2015年7月 第3次再審請求
  • 2017年6月 鹿児島地裁、再審開始決定→しかし検察が即時抗告(怒)
  • 2018年3月 福岡高裁宮崎支部検察の即時抗告を退け再審開始決定
  • 2018年3月 しかし検察は特別抗告(怒)、審理は最高裁判所
  • 2019年3月 最高裁は沈黙を守ったまま

 第1次再審請求では、遺体の傷が自白で得られた殺害方法と矛盾するという法医学鑑定を提出。一度は再審開始決定が出たものの、検察の抗告によって取り消されてしまいます。

第2次再審請求では、検察が「ない」と隠していた初期捜査段階の証拠など200点以上が開示。3人の親族の自白が、強引な取調べによって得られたことが一層明らかに。しかし再審請求は棄却されます。

第3次再審請求では、検察が「未開示証拠はもう存在しない」と言い張っていた証拠の存在が判明。3人の親族の自白は強要されたウソであるという心理学鑑定も提出。地裁、高裁とも再審開始決定を出しますが、検察の抗告によって引き延ばされ、現在に至っています。

どうでしょうか?裁判所はこれまで、3回も再審開始決定を出しているのです。こんな事件、他にはなかなかありません。

本来であれば2002年3月の段階で、速やかに再審無罪が確定しているべきでした。そうなればアヤ子さんは、92歳になろうとする現在まで苦しまなかったハズ。このブログで何度も書いてきましたが、検察の抗告を許す現行の「刑事訴訟法」は今すぐ改正すべきです。

検察庁法」の第四条は検察官の役割について、このように規定しています。

第四条 検察官は、刑事について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、且つ、裁判の執行を監督し、又、裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは、裁判所に、通知を求め、又は意見を述べ、又、公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う。

大崎事件に限らず他の冤罪事件でもそうですが、検察が行っていることは “公益の代表者” を自ら放棄した蛮行に他なりません。この人たちのアタマの中には、“一度起訴して有罪にしたものを覆すなど許せない” という、自分たちのメンツを守ることしかないのでしょう。

■こんな司法、絶対に変えよう

大崎町、私は一度も行ったことがありませんが、鹿児島市内からバスとフェリーを乗り継いで3時間かかるそうです。東京まで飛行機で来るよりも、時間がかかるわけです。アヤ子さんはまだ元気だった第一次再審請求審の時、この遠い道のりを最高裁まで通って “あたいはやっちょらん” と訴えたといいます。

日本の警察、検察、裁判所は、一体何を守ろうとしているのでしょうか? こんな状況、何としても変えなければと思います。

 91歳の原口アヤ子さん。事件から40年、一貫して無実を訴え続けている。『NNNドキュメント』(2018年2月18日放送)より。

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【102】片岡健さんの新刊『平成監獄面会記』を読んで

とにかく会ってみる&行ってみる” 

今回は、おすすめの新刊本を紹介します。

タイトルは『平成監獄面会記』(笠倉出版社)。著者の片岡健さんは、冤罪を含むさまざまな事件を取材しているフリーライター。本著では死刑を宣告された8人との面会を通して、報道では見えなかった彼等の素顔に迫っています。

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 8人の中には「津久井やまゆり園」で19人の入所者を殺害した植松聖被告、鳥取連続不審死事件の上田美由紀死刑囚など、誰もが知るような事件の当事者も含まれています。

 本著の執筆に際し、改めて数えてみたところ、これまでに会った殺人犯は全部で39人だった(まだ裁判で有罪が確定していない者や冤罪の疑いがある者も含む)。刑務官や警察官、検察官、弁護士など一部の専門職(?)の人たちを除けば、これだけの人数の殺人犯に会ったことがある人間は、おそらく、日本にあまりいないだろう。(まえがき より)

という片岡さん。実際に会ってみなければわからないことがたくさんあるので、拘置所に通い続けるといいます。

取材を重ねる中、常々感じるのは、報道のイメージ通りだと思える犯人が1人もいないということだ。報道では、絵に描いたような凶悪殺人犯という印象だった人物でも、面会してみると、たいていは普通の人である。むしろ、普通より弱々しい人物も珍しくない。報道では、身勝手極まりない印象だった殺人犯が実際は礼儀正しかったり、腰が低かったりするというのもよくあることだ。(まえがき より)

私は守大助さん以外に面会の経験がないので断定できませんが、本当にこの通りかもしれません。とくに逮捕当初は、犯人(容疑者)の凶悪さを強調した報道が洪水のようになされます。そのネタ元のほとんどが、捜査機関のリークです。凶悪犯を捕まえたことをアピールしたい警察、厳罰を課したい検察、そのPR役を担うマスメディア。この3者によって作られた、実際とは異なる犯人像を私たちは見せられているのです。

“でも人を殺したんだから、悪い奴であることに変わりないだろう” という反論のある方は、ぜひこの本を読んでください。

ネタバレになるので内容の詳説は避けますが、私は読んでみて「本当に誰でも、ちょっとしたボタンのかけちがいで人を殺してしまう可能性がある」という感想を持ちました。もちろん殺人を肯定しているわけではありません。でも偏った正義感であったり、思い込みであったり、焦燥感であったり絶望感であったり…誰もが殺人犯になるスイッチは、意外に身近に存在しているのではないかと感じます。

そして感銘を受けたのは、片岡さんの取材姿勢。報道を鵜呑みにするのでなく、まずは当事者に会いに行く。事件が起きた現場に行ってみる。裁判記録にも目を通す。とにかく “自分の足で確かめる” という姿勢を貫いています。

面会してみたいと思う殺人犯がいた時、私が最初にするのは、取材依頼の手紙を書くことだ。(中略)では、手紙はどこい出せばいいのか。警察に逮捕された殺人犯は通常、最初はそのまましばらく警察署で拘留される。そして起訴されると、しばらくしてから刑務所や拘置所に移される。つまり、手紙を出す場所は、警察署か刑務所、拘置所のいずれかということになる。(中略)手紙を出してみて、本人から返事の手紙が届けば、あとは簡単だ。「面会してもいい」という返事なら会いに行けばいい。(殺人犯たちと面会するにはどうすればいいのか より)

片岡さんは何か特殊なネットワークを使ったワケではなく、手紙を出すという、ある意味誰でもできる手順を踏んだに過ぎません。ただそれを「やる」か「やらない」かは、ものスゴく大きな違いだと思います。

もし新聞記者が捜査機関のリークだけで記事を書くのを止めて、容疑者の言い分も聴いて現場に足を運べば “これはオカしい” と気づくことがたくさんあるでしょう。自分の足で稼いだ情報をもとに冷静な報道をしてくれれば、冤罪だって減るでしょう。守大助さんの逮捕当初も、メディアは本来の仕事をちゃんとして欲しかったと思います。

こちらは片岡さんの既刊。テーマは「冤罪死刑囚」。本ブログでも紹介した「飯塚事件」では、死刑執行にかかわった法務官僚らへの取材も行うなど、相手が国家権力でも「当事者に当たる」スタンスを貫いている。

 

 袴田巖さんも!「逮捕後のニコニコは無実の証

本著では8人との面会を紹介していますが、表紙では「7人と1人」と表記しています。「1人」は冤罪の可能性が極めて高く、他の7人と区別しているからです(ネタバレごめんなさい)

その1人とは「横浜・深谷親族殺害事件」の新井竜太さん。共犯とされた従兄弟に全ての責任を押し付けられ、無実を訴えたまま死刑が確定してしまいました。ちなみにウソを重ねて新井さんに責任を押し付けた従兄弟は、無期懲役になりました。

逮捕直後、警察のクルマに乗せられた新井さんがニコニコと笑みを浮かべている写真が配信されました。

私にはそれが「余裕の笑み」のように見え、心に引っかかったのだ。(中略)冤罪で逮捕された人物は最初のうち、「証拠などないのだから、すぐに疑いは晴れるだろう」などと、自分の未来を楽観視している場合が少なくない。(中略)ひょっとして新井もそのパターンではないか……私はふとそんなことを考えたのだ。

と、片岡さんは取材を始めたきっかけを綴っています。面会で真意を聞かれた新井さんも、このように答えています。

「そうですね。裁判で無罪判決が出ると思っていましたから、僕を逮捕した警察や検察が恥をかくと思い、笑っていたんです。」

これを読んで、袴田巖さんと一緒じゃないか!と思いました。今でこそ “無実の死刑囚” と好意的な報道が多いのですが、逮捕当初の犯人視報道は本当に醜いものでした。

逮捕を報じた1966年8月18日の「毎日新聞」(夕刊)では、警察のクルマの後部座席でニッコリ微笑む袴田さんの写真が大きく紹介されています。

左上にボクサーの記事が出ていますが、無関係です。ボクシング漫画の金字塔『あしたのジョー』が世に出るのは2年後。まだイメージの悪かった“ボクサー崩れ”への偏見も、袴田さんの犯人視を後押ししたのだろう。

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人を殺した上に “不敵なうす笑い” を浮かべる狂気の殺人者というトーンで報道されていますが、これはクルマの窓の外に顔見知りになった記者の姿を見つけて、ホッとしてニコニコしというのが真相のようです。 

実は警察は早い段階から「従業員Hがアヤシい」として、袴田さん逮捕の可能性をリークしていました。これを受けた記者が逮捕前に袴田さんに接触し、取材をしていました。

逮捕翌日8月19日の「毎日新聞」は、その時の様子を一問一答で紹介。袴田さんは「自分は元・ボクサーなのだから(凶器とされた)小刀は使いません。バーンとアゴをなぐれば起き上がれませんから」など、自分の無実を切々と訴えています。しかし記事は“自分の罪を認めず言い訳をするケシカラン奴”というトーンで報じています。

この時の袴田さんは、まさかその後48年にわたって自由が奪われるなどとは、夢にも思っていなかったでしょう。そして新聞記者のことは、自分の無実を公平に伝えてくれる味方と思っていたのでしょう。“不敵なうす笑い” は、無実の何よりの証拠なのです。

また「袴田はウソつきだ。“フィリピンに行った” などとウソを言っている」と、警察のリークをそのまま報じた記事もあります。袴田さんが現役時代の1961年にフィリピン遠征していることは、裏を取ればスグわかることであるにもかかわらず…。

毎日新聞」は袴田さん逮捕に多くの誌面をさき、センセーショナルな犯人視報道を繰り広げました。守大助さん逮捕当初の「朝日新聞」と同じです。マスコミは50年前も現在も、同じ愚行を繰り返しているのです。

というわけで思ったコトを取りとめもなく書いてきましたが、とにかく報道を鵜呑みにせず、当事者に会ったり現場に行くことの大切さを改めて痛感させられました。本ブログでも守大助さんの面会に足を運んだり事件の現場を歩いて、真実を伝えるよう努力したいと思います。

 死刑や冤罪に関心のある方にも、ない方にも広く読んでいただきたい。1380円+税。

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【101】「乳腺外科医えん罪事件」やはり検察は控訴(怒)

■「逆転有罪」は絶対に阻止、「無罪」を死守だ!!

前回紹介した「乳腺外科医冤罪事件」の無罪判決。やはり検察(東京地検)は控訴してきました。これを受け、東京高裁で審理が続けられることになります。この事件、検察は「懲役3年」を求刑しています。もし無罪が取り消され「逆転有罪」になれば、無実の人間が刑務所に送られることになりかねません。

私たちは何としても「無罪判決」を死守しなければならないのです。

今回の無罪判決は、警察・科捜研の不正行為を断罪した画期的なものでした。科捜研による鑑定資料の破棄や全量消費、データの改ざんは、多くの冤罪を生み出す温床になってきました。こうした不正行為が強く疑われるケースでも、裁判所は完全にスルーして有罪判決を下してきたのです。守大助さんの「北陵クリニック事件」しかり、久間三千年(くまみちとし)さんの「飯塚事件」しかり…。詳しくは前回に書いた通りです。

なので科捜研のデタラメ鑑定によって有罪にされた多くの冤罪事件の再審を実現させるためにも、今回の無罪判決を良き判例(モデルケース)として、確定させなければならないのです。逆にもし有罪になってしまったら、警察はこれまでどおりデッチ上げをやりたい放題となるでしょう。

この事件、幸いにして「民医連」(全日本民主医療機関連合会)などの医療団体が支援をしています。3月4日の時点で、検察に対して「控訴を断念するように求める要請書」は団体署名485団体、個人署名246名分が集まりました。「守大助さん東京の会」も署名しました。

要請書は支援者らが東京地検に持参し、1階ロビーのベンチで事務官が受け取ったとのこと。ただし支援者4人のうち入るのが許されたのは1人だけだったそう。すでに控訴を決めていたのでしょう。

■やはりマスコミでなく「マスゴミ」と呼ばせてほしい

今回の検察(東京地検)による控訴、「Yahooニュース」をチェックすると「朝日」「読売」「産経」が報じています。しかしいずれの記事も、検察が何故控訴したのか?という理由が1行も書かれていません。

本来なら東京地検の幹部を直撃し、控訴を厳しく問いただすのがマスコミの役目じゃないでしょうか?新聞記者は検察が怖いんでしょうか?記者クラブでお世話になっているから追求できないんでしょうか?

ご存知のとおり検察は「袴田事件」の袴田巖さんも「拘置所に再収監せよ」と主張しています。こちらは東京地検でなく最高検察庁。つまり日本の検察組織のトップ自らが、無実が明らかな人間を「死刑台に連れ戻せ!」と平然と言い放っているのです。しかし検事総長以下、最高検の幹部を追求するマスコミは見たことがありません。

昨今は「新聞記者は国民の代表か?」という議論もあるみたいですが、私はこんな人たちを代表と認めるつもりはありません。

 ■検察も「息をするようにウソをつく」

というわけで、せめて東京地検の検事正・甲斐行夫さんの写真とプロフィールを下に貼付けておきます。同地検のHPからのスクリーンショットです。読んでいただけば分かるとおり、口では凄いことを言っています。

「厳正公平、不偏不党を旨とし、基本に忠実な捜査・公判を行って…」だそうです。

難しい語句を使っていますが、自分で意味を分かっているのでしょうか?

ついでに最高検検事総長のページもリンクを貼っておきます。さらにスゴい決意を述べています。

検事総長の紹介:検察庁

 今、我が国の首相が「息をするようにウソをつく」と揶揄されていますが、検察も負けてはいませんね。

ハナシを今回の「乳腺外科医冤罪事件」に戻します。東京地検の控訴を受けて、被害を訴える女性の代理人弁護士が「控訴審の裁判官が適切な判断をし、有罪判決が下されると信じている」と、女性のコメントを読み上げたそうです。女性は手術後の幻覚で、本当にワイセツ行為をされたと思い込んでいるのだから、仕方ありません。

問題は代理人弁護士です。この弁護士、2月20日の無罪判決が出た直後に記者会見を行い「無罪判決に、大変驚いている」とコメントしていました。

私は、こんなことを平然と言う弁護士がいることに「大変驚いて」います。この人は科捜研のデタラメを容認するつもりなのでしょうか? いくら依頼人の権利を代弁するとは言え、弁護士本来の使命を大きく逸脱していると思います。

この直後、ある冤罪事件の再審弁護団の事務局長を務めている女性弁護士から、こんなツイートがありました。

“無罪判決が出たとき、「被害者」が糾弾すべき相手は無罪となった被告人ではなく、杜撰な捜査をし、手続的正義を無視した証拠を提出した警察・検察(国)である。被害者代理人弁護士は、それを被害者に説明しなければ、真の意味で被害者に寄り添う専門家とは言えないのではないか。”

この弁護士さんは「大崎事件」の鴨志田祐美弁護士。本当にその通りだと思います。弁護士さんと言っても冤罪に理解のある人、ない人、いろいろいるものですね。

 

東京地検・甲斐行夫検事正の経歴。検察のトップに上り詰めるのは「法務省刑事局」出身者が多い。法務省が実質的に検察に支配されていると言われる所以だ。

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